相続の承認・相続放棄・限定承認の熟慮期間の伸長
新型コロナウイルス感染症の拡大により、経済にも大ダメージを受けています。
こうした大変な状況でも、もし親族が亡くなり、相続が発生した場合には、相続人は財産調査や銀行の解約、役所の手続き等を進めていかなくてはなりません。
特に、相続放棄や相続税申告・納付、準確定申告といった相続関連の手続きには、期限があります。しかし、緊急事態宣言により、役所や金融機関、裁判所の機能が制限されている地域もあり、思うように手続きを進められないことも多いでしょう。
その場合はどうしたらよいのか?
今回は、特にこの「相続放棄の期限(熟慮期間)」についてのご説明をさせて頂きます。
目次
- 熟慮期間について
- 熟慮期間の伸長について
- どのような場合に認められるのか
- どれくらいの期間伸長が認められるのか
- 期間伸長の申立てをしなかったらどうなるのか
- 熟慮期間(相続の承認又は放棄の期間)伸長 手続き書類・流れ
- まとめ
1、 熟慮期間について
亡くなった方が残した財産(いわゆる相続財産)とは、プラスの財産だけではなくマイナスの財産もそれにあたります。
プラスの財産(預金や不動産、株式等)だけを引継ぎ、マイナスの財産(借金や未払金等)は引き継がないといった都合の良いことはできません。
(※プラスの財産の範囲内でのみマイナス財産を引き継ぐ「限定承認」という方法は存在します)
そのため、相続で引き継ぐ前に、相続財産に借金がないか、借金の連帯保証人になっていないか、仮に借金があった場合にはいくらぐらいあるのか等も調べておく必要があります。
もし、借金が、プラスの財産より多くて財産を引継ぎたくない場合には、亡くなった方の住居地を管轄する家庭裁判所に対して相続放棄申述申立てを行うことにより、プラス財産もマイナス財産も一切引き継がないことができます。
ただし、この相続放棄は「相続人は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内(この期間を「熟慮期間」といいます)にしなければならない」と定められております。(民法915条1項本文)
相続の開始があったことを知った時から3ヶ月経過したにも関わらず、「相続放棄」・「限定承認」のいずれもしない場合には、単純承認したとみなされ、プラス財産もマイナス財産も引き継ぐことになり、原則として相続放棄をすることができなくなります。
2、 熟慮期間の伸長について
では、令和2年4月7日に緊急事態宣言が発令され、外出も控えないといけない中で、人の多い役所や銀行へ行くのは怖いし、そもそも遠方の役所に行けないし、郵送で行うにもかなり時間がかかる。銀行や役所も人員を最小限で営業しているため、財産を調査したりするのにはかなりの時間がかかってしまうという方もたくさんいらっしゃるかと思います。
こうした場合に家庭裁判所に申立てをすることで、この相続放棄ができる期間(限定承認も同様)「熟慮期間」を伸長できます。
3、 どのような場合に認められるのか
家庭裁判所では、熟慮期間中に放棄や承認の意思決定を行うことが困難な状況かを審査し、伸長の可否が決定されます。
例えば、相続人が多い、海外や遠隔地に居住している場合、相続財産が所在場所や複雑な場合等がこれにあたる場合が多いでしょう。新型コロナウイルス感染症の影響を理由とした熟慮期間の伸長は、基本的に認められる可能性が高いです。
外出自粛や金融機関・官庁等の営業時間短縮・人員制限などで、現実的に相続手続きを円滑に進めることは困難な状態にありますので、
政府より緊急事態宣言が出ている中、熟慮期間を伸長する必要性が高いと言えます。
4、 どれくらいの期間伸長が認められるのか
通常、1ヶ月から3ヶ月程度の伸長が認められます。
しかし、新型コロナウイルスは前例がないくらい社会に影響を及ぼしているので、裁判所の判断により、熟慮期間の伸長についても通常時より長い期間が認められるという可能性は十分にあります。
5、期間伸長の申立てをしなかったらどうなるのか
この期間内に相続放棄または限定承認を行わなかった場合、単純承認したものとみなされます。原則として、プラスの財産とマイナスの財産の両方引き継ぐことになります。
※相続発生したことを知った時から、3ヶ月が経過してしまった場合も、相続放棄を期限内にできなかったことについて「相当な理由」がある場合には、相続放棄が認められるケースもあります。こういった方は、例外的な対応になるため、弁護士・司法書士等の専門家にご相談されることをお勧め致します。
6、熟慮期間(相続の承認又は放棄の期間)伸長 手続き書類・流れ
・亡くなった方(被相続人)の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申立書の申請を行います。
・申立書の作成と添付資料(戸籍謄本・亡くなった方の住民票除票等)の準備
・800円の収入印紙
・予納郵券(切手)(※各家庭裁判所により異なりますので、事前に確認しましょう)
・裁判所が審判を行い、通知書が送られてきます。
7、まとめ
現在、様々なところで新型コロナウイルス感染症の影響がある中、相続が発生した、熟慮期間の3ヵ月が過ぎそうになった場合は、財産の概要が分からないまま引き継ぐか、放棄するのか決めるのではなく、すべての財産を把握し、適切に意思表示を行う期間を確保するために、熟慮期間の伸長の申請することはとても大切です。
一方で、新型コロナウイルス感染症の影響で、熟慮期間の伸長は認められる傾向にあるとはいえ、その認否・期間の程度についても、裁判所の個々の案件に対する判断であることに変わりはありませんので、このような緊急事態の下では、特に、一刻も早く、スムーズに手続きを進めることができるよう専門家にご相談されることをお勧め致します。
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著者情報
代表 柳本 良太
- <所属>
- 司法書士法人 やなぎ総合法務事務所 代表社員
- 行政書士法人 やなぎKAJIグループ 代表社員
- やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役
- 桜ことのは日本語学院 代表理事
- LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師
- <資格>
- 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
- 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
- 2009年 司法書士試験合格
- 2010年 行政書士試験合格