今回は司法書士法人やなぎ総合法務事務所で実際にお問い合わせがあったご相談についてお話しさせていただきます。
「他の相続人から遺産はあげないと言われた」というご相談です。
他の相続人から遺産はあげないといわれた場合の対応について知りたい方は本ブログを見て参考にしていただけると幸いです。

目次

 

お問い合わせの概要

●相談者様のお悩み
父親が亡くなり、母は私に「遺産はあげない」と言ってきました・・
生前に母の世話を投げ出している時点での交渉は難しいと感じているが少しでも取り分が自分にないのでしょうか?

●登場人物:
被相続人:父親
相続人:配偶者の母親(認知症)、自分(妹)、兄

●要点
・遺産は銀行預貯金で約3000万不動産が約1000万ある。
・親子関係は良好ではない
・お金の管理は兄に全て任せていたが、兄の態度が急変し、母が認知症ぎみだということもあり、母を洗脳し私を悪者に仕立て上げた。
・母は私に遺産を渡さないと言っているが、私も母を嫌っていて、子供の頃から迷惑をかけられたので、迷惑料としてお金が欲しい。
・父の遺言書に遺産は母に全て相続、母が亡くなったら姉弟で仲良く分けろと記載されている。

面談での会話

やなぎ総合法務事務所:「本日はどの様なご相談でしょうか?」

相談者:「父が亡くなったのですが、遺言があり、「遺産はすべて母が相続する。母が亡くなった場合は子供2人で仲良く分けるようにすること。」と書かれていました。生前親には苦労をかけられましたので、何も遺産を受け取れないのは納得がいきません。私もなにか相続できないのでしょうか。」

やなぎ総合法務事務所:「遺言がありますが、その内容に納得できないということですね。他のご相続人の方はどのようにおっしゃっていましたか?」

相談者:「母は認知症ぎみで、兄の言うことは聞いてくれますが、私のことは信用していなくて話が通じません。また、母の財産は兄が管理しているので、兄は母がすべて相続することに賛成しています。」
やなぎ総合法務事務所:「相続人間で意見が対立している状況なのですね。そうしましたら今回のケースでは…」

ご相談に対する回答

上記の相談内容の重要な点についてそれぞれ説明していきます。

 

2-1 遺言が無効の場合

やなぎ総合法務事務所「まずはお父様が残された遺言が有効なものか確認してみましょう。」
相談者「遺言が無効になるのはどういった場合ですか?」
やなぎ総合法務事務所「遺言の方式に不備がある場合、内容が不明確な場合、認知症で意思能力に問題のある状態で作られた場合などは、遺言は無効とされます。」

 

【遺言が無効となる場合】

①書き方に不備がある遺言

民法上の方式と違う方式で作成した遺言は無効です。(民法960条)
特に自筆証書遺言は、注意が必要です。
自筆証書遺言の方式には以下のようなルールがあります。(民法968条1項)
・全文を自書する
・日付や氏名も自書する
・押印がある

なお、平成31年1月13日の改正法により、「全文の自書」の例外として、相続財産の全部または一部の目録(財産目録)を添付する場合は、その目録は自書しなくても良いとされました。(民法968条2項)
ただし、目録のページごとに署名と押印が必要です。

遺言書には自筆証書遺言以外に、「公正証書遺言」、「秘密証書遺言」があります。
公正証書遺言」は、公証人が作成して原本は公証役場で保管されます。
秘密証書遺言」は、本人が署名・押印して作成した遺言書を封筒に入れて封印し、公証人及び証人2名の前に提出して内容を誰にも知られないように作成します。

② 内容が不明確である遺言

遺言書の内容が確定できない遺言は無効となります。
もっとも、遺言者の最後の意思を尊重するため、できる限り有効となるように解釈がなされますので、一見内容が不明確だとしても、諸般の事情により遺言者の真意を解釈して内容を確定し、遺言を有効と判断する裁判例も少なくありません。

③内容が公序良俗に違反している遺言

公序良俗に反する内容の遺言は無効です。(民法90条)
公序良俗違反として争いになる代表例は、不貞相手に対する遺贈です。
遺贈が不倫関係の維持や継続を目的としているといえるか、遺贈が相続人へ与える影響などを考慮して判断されます。
不倫相手へ遺贈する内容の遺言でも公序良俗に反しないと判断される場合もあります。
最高裁昭和61年11月20日判決の裁判では、遺産の3分の1を包括遺贈する内容の遺言について、不倫関係の維持継続を目的とせず、もっぱら生計を遺言者に頼っていた不貞相手の生活を保全するためにされたものというべきであり、また、その遺贈が相続人らの生活の基盤を脅かすものとはいえないとして、公序良俗に違反しないと判断されました。

④ 認知症など遺言能力がない状態で作成した遺言

遺言能力がない状態で作成された場合も無効です。
よくある例は、遺言当時に認知症であったため、遺言能力が争われるケースです。
しかし、認知症であるからといって当然に遺言が無効になるというわけではありません。
なぜなら、認知症といっても症状の程度は人によって様々で、
「認知症=遺言能力なし」とは断言できないからです。
民法上明確な定義は存在しませんが、遺言能力は、抽象的には「遺言当時、遺言内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足る能力」などと言われます。
遺言能力があるかどうかは、遺言者の年齢や病状を含めた心身の状況、遺言時及びその前後の言動、遺言者と受贈者との関係、遺言の内容などの諸事情を総合的に考慮して、判断されます。

⑤錯誤、詐欺、強迫により遺言が書かれた遺言

錯誤、詐欺、強迫によって書かれた遺言は取り消すことができます。(民法95条、96条)
裁判では、要素の認識違いなどによる錯誤について争われることが多いですが、認められるケースはあまりありません。
詐欺や強迫は、すでに遺言者が亡くなっているため、主張と立証が極めて困難で、問題となることは少ないでしょう。

⑥ 偽造された遺言

偽造された遺言書は、「自書」ではないので、無効です。
また、遺言書を偽造した人は、相続人となることができません(民法891条5号)。

 

相談者「遺言が無効になった場合どうなるのでしょうか?」
面談者「その場合、相続人全員で遺産分割協議をすることとなります。」
相談者「母は認知症なのですが問題ないでしょうか?」
面談者「認知症の相続人には意思能力が認められませんので、遺産分割協議に参加することができません。こういった場合、認知症の方のために後見人をつけて、その後見人が遺産分割協議に参加することで手続きを進められます。」
相談者「母に後見人をつける手続きが必要となるのですね。」

 

※相続人が認知症になっていた場合の相続手続きについては「相続人(相続を受ける人)が認知症になってしまっていたら!?」

をご覧になっていただけると幸いです。
相続人(相続を受ける人)が認知症になってしまっていたら!?

 

面談者「では、今回の遺言の内容をみていきましょう。」
相談者遺産はすべて母が相続する母が亡くなった場合は子供2人で仲良く分けるようにすること。と書かれていました。」
面談者「前半部分は有効な内容ですが、後半部分は無効な内容です。内容が不明確ですし、お母様が亡くなった後の相続方法をお父様の遺言で定めることはできません。もしそれを定めたいのであればあらかじめ「家族信託」等の契約をしておく必要があります。
ちなみに、「お母様がお父様より先に亡くなった場合は子供2人に2分の1ずつの割合で相続させる」という内容であれば定めることができます。」

 

【遺言で次の相続(二次相続)について定めることができるのか】

①二次相続

ある人が亡くなった時の相続を「一次相続」、一次相続での相続人が亡くなった時の相続を「二次相続」といいます。
例えば、①父親②母親の順番で亡くなった場合、父親の相続が一次相続、母親の相続が二次相続です。

①二次相続の方法を遺言で指定するのは不可

自分の遺言では自分が亡くなった時の財産の承継先しか定めることはできません。
二次相続の時の財産の承継先を決めることはできないのです。
たとえば、夫、妻、子供(長男、長女)の4人家族の場合を考えてみましょう。
夫は自宅を、自分が亡くなった時は妻に、また妻が亡くなった時は長男に渡したいと考えて、遺言で「妻に自宅不動産を相続させる。その後、妻が亡くなった時は長男に自宅不動産を相続させる。」と定めました。
この場合どのようになるでしょう?
前半の「妻に自宅不動産を相続させる」という部分は有効ですが、後半の「その後、妻が亡くなった時は長男に自宅不動産を相続させる。」という部分は無効となります。
遺言によって妻は自宅を相続することができますが、長男は自宅を相続することができないのです。
なぜかというと、妻が亡くなった時に、妻が所有している財産を誰に渡すかを決められるのは妻だけだからです。
妻が夫と同様に自宅は長男に相続させたいと考えていて、その旨の遺言をした場合は、長男は自宅を取得することができますが、妻が別の考えを持っていた場合、夫の希望通りにはなりません。

相談者:「父の相続手続きをしないまま母が亡くなった場合、どうなりますか?」
面談者:「お母様の遺言がなければ、お兄様と遺産分割協議をすることとなります。」

 

2-2 遺言が有効の場合

相談者:「遺言が有効であった場合は、私は何も相続できないのでしょうか?」
面談者:「遺言が有効であっても、亡くなった方の子供なので、遺留分を主張することができます。」
相談者:「私はどのくらい権利を主張できるのでしょうか?」
面談者:「遺留分は法定相続分より少ないですが、8分の1の権利があります。」

 

【遺留分を請求する】

①遺留分とは

遺留分とは、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹以外の近親者である法定相続人に最低限保障される遺産を受け取る権利のことです。
子どもや配偶者などの近親者は、遺留分が認められ、この権利は廃除や特別受益等の特別の事情が無い限り、遺言によっても奪うことはできません。
そのため、遺言によって妻に遺産のすべてを渡すとされたり、愛人に財産を渡すとされた場合でも、遺留分が認められている相続人は、その権利を主張すれば一定の財産を取得できることになります。

遺留分はあくまで「権利」なので、相続財産を請求するかどうかはその相続人が決められます。
また、条件は厳しいですが、遺留分を被相続人の生前に放棄してもらうこともできます。
「遺留分を放棄する」といった念書だけでは無効で、遺留分を放棄する相続人が家庭裁判所で申し立てをする必要があります。
放棄の撤回は可能ですが、非常に難しくなります。

②遺留分が認められる相続人

遺留分が認められるのは、以下の範囲の相続人です。
・夫や妻などの「配偶者」
・子ども、孫などの「直系卑属」
・両親、祖父母などの「直系尊属」

以下の相続人には遺留分が認められません。
・兄弟姉妹や甥姪

遺留分を請求するには、複雑な計算が必要となります。

③遺留分の割合と計算方法

遺留分によって、具体的にどのくらいの割合で遺産を受け取ることができるのでしょうか?
遺留分の割合は「法定相続分の半分」(直系尊属者のみが相続人の場合は「法定相続分の3分の1」)です。
法定相続分とは、例えば、相続人が、妻と子ども2人の場合、妻の法定相続分は「2分の1」ですので、遺留分は「4分の1」となります。
子どもの法定相続分は一人あたり「4分の1」ずつなので、遺留分はさらにその半分となるため、子ども一人の遺留分は「8分の1」となります。

※相続割合については「相続割合・相続の分け方 わかりやすく解説」をご覧になっていただけると幸いです。
相続割合・相続の分け方 わかりやすく解説

遺留分の割合は、2段階で計算します。
まずは「総体的遺留分(全体でどのくらいの遺留分が認められるか)」を確認します。
その上で、個別の遺留分権利者の遺留分割合である「個別的遺留分」を計算します。

総体的遺留分は、誰が相続人になるのかによって異なります。

・両親や祖父母などの直系尊属のみが相続人の場合
総体的遺留分の割合は遺産全体の3分の1です。
・それ以外の場合(配偶者や子供が相続人の場合など)
総体的遺留分の割合は、遺産全体の2分の1です。
配偶者と亡くなった人の親が相続人となるときも、「直系尊属のみ」以外の場合にあてはまるので、2分の1です。

各相続人の遺留分は以下の式で計算します。
「総体的遺留分」×「法定相続分」

相続人ごとの遺留分の割合を一覧表にまとめましたので、参考にしてください。

相続人遺留分の合計

遺留分が占める割合

相続人ごとの遺留分
配偶者父母兄弟姉妹
配偶者のみ1/21/2
配偶者と子1/21/41/4
配偶者と父母1/22/61/6
配偶者と兄弟姉妹1/21/2権利なし
子のみ1/21/2
父母のみ1/31/3
兄弟姉妹のみ無し権利なし

 

今回のケースに当てはめると相談者が遺留分として請求できる金額はいくらになるでしょうか?
遺産総額4000万円、相続人は妻と子供2人で、妻に全財産を相続させる遺言書が残されていました。

・遺留分の割合
妻:4分の1
子どもそれぞれ:8分の1
・遺留分の具体的な金額
こども1人あたり:4000万円×8分の1=500万円

よって、相談者は母に対して500万円の遺留分を請求することができます。

 

まとめ

以上が他の相続人から遺産はあげないといわれた場合についてのお話でした。
ここまでのお話をまとめたものが以下の表です。

お問い合わせの概要・亡くなった父親が遺言を書いていた。

・遺言の内容は「全ての財産を母に相続させる。母が亡くなった場合は兄妹で仲良く分けること。」

・母は認知症

・母と兄の関係は良好だが、自身は2人と不仲。

相談に対する回答【遺言が無効の場合

・遺言が無効となるのは

①書き方に不備がある

②内容が不明確である

③内容が公序良俗に違反している

④認知症など遺言能力がない状態で作成した

⑤錯誤、詐欺、強迫により遺言が書かれた

⑥偽造されたものである

・遺言で次の相続(二次相続)について定めることができるのか

二次相続の方法を遺言で指定するのは不可

 【遺言が有効の場合

・遺留分を請求する

・遺留分とは、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹以外の近親者である法定相続人に最低限保障される遺産を受け取る権利のこと

・遺留分が認められるのは、

①夫や妻などの「配偶者」
②子ども、孫などの「直系卑属」

③両親、祖父母などの「直系尊属」


・遺留分の計算方法

・総体的遺留分(全体でどのくらいの遺留分が認められるか)

①両親や祖父母などの直系尊属のみが相続人の場合、3分の1

②それ以外の場合(配偶者や子供が相続人の場合など)、2分の1

・「遺留分」=「総体的遺留分」×「法定相続分」

 

司法書士法人やなぎ総合法務事務所では、大阪(阿倍野区・阿倍野、天王寺)、東京(渋谷区・恵比寿、広尾)事務所にて「無料相談・出張相談」も受け付けております。どんな些細なご相談も親身になり耳を傾け、どのようなご依頼でもお客様のご希望、目的に近づけるよう励みます。お気軽にご相談、お問い合わせください。

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著者情報

代表 柳本 良太

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    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所