大切な資産の1つの不動産を受け継ぐ手段には「生前贈与」があります。特に不動産は土地や建物のように分割が難しいので、生前贈与で名義変更をすることで、所有権をはっきりすることができます。

今回は、一般的な贈与について触れていきます。

相続時精算課税制度を用いた贈与については別の機会にお話しさせていただきます。

 

本ブログでは、希望通りに引き継げるよう、注意点などを解説していきます。

 

目次

1 生前贈与

 1-1 生前贈与と相続の違い

 1-2 生前贈与のメリット

 1-3 手続き方法

2 生前贈与にかかる税金

 2-1 贈与税

 2-2 不動産取得税

 2-3 登録免許税

3 生前贈与の注意点

4 まとめ

 

生前贈与

生前贈与と相続の違い

まず1つ目の大きな違いは、生きている時であるか亡くなった後かという違いです。生きているうちに財産を誰かに贈るのが生前贈与であり、亡くなった後に財産を遺言などによって引き継ぐのが相続となります。 贈与を受けた側に贈与税がかかり、相続した側に相続税がかかります。

また、相続は一回限りですが、生前贈与には回数制限がないため、贈与税がかからないようになど、計画的な資金移転が可能です。

 

生前贈与のメリット

メリットの1つとしては、生前に不動産の名義変更をすることで、希望通りの相手に確実に不動産を引き継ぐことができます。生前贈与をしておらず、遺言書もない場合は、遺産の分け方を決める「遺産分割協議」で、誰が不動産を相続するかを話し合うこととなります。

しかし、不動産は物理的に分けることが難しいため、相続人同士で揉めることも多々あります。また、特定の相続人に引き継ぐことが決められず、相続人同士で不動産を共有するケースもあります。しかし、不動産の共有は、売りたいときに全員の合意がないと売れないなどトラブルもあるため、不動産を生前贈与することで、この様なデメリットを避けることができます。

また、不動産を生前贈与することで相続税を抑えることができる可能性があります。

将来値上がりしそうな不動産は、値上がり前に生前贈与を検討するとよいでしょう。例えば、現在3000万円程度の不動産が、数十年後の相続時には2倍の6000万円になるなど大幅な値上がりが見込めるようなケースです。相続税と贈与税では税率が違い、他の財産額によっては値上がりした後に相続税を収めるより、現段階で贈与して贈与税を支払うことで、税金が安くなる可能性があります。

家賃収入のある不動産の場合、その収入により被相続人の財産が増えた後に相続すると、相続税が高くなる恐れがあります。一方、生前贈与をすると、その家賃収入は、贈与を受けた人の財産となるため相続財産の増加を抑えることが可能です。

ただし、相続時に取得した土地の評価額を最大8割下げられる「小規模宅地等の特例」は、贈与では適用されないため注意が必要です。「被相続人とその家で同居している」「被相続人の事業を引き継ぐ」など特例の要件を満たしているのであれば、相続のほうが税金を抑えられる可能性があります。このように、贈与と相続のどちらが良いか、状況によって異なるため、正確な税金の計算が必要となります。そのため、税理士に相談することを検討すると良いかもしれません。

そして、お金の面だけではなく、認知症によって不動産所有者の判断能力が低下すると、投資不動産の管理や、介護費用や老後資金のための土地の売却、相続トラブルを防止するための遺言書の作成などができなくなってしまう場合があります。

このような状況を避けるためにも、不動産所有者である本人が十分な判断能力があるうちに、生前贈与するのも一つの方法です。

 

手続き方法

不動産を生前贈与するためには、贈与契約書の作成や名義変更の登記などの手続きが必要です。贈与は、贈与する人(贈与者)と贈与される人(受贈者)との契約です。法律上は口頭での約束でも贈与契約は成り立ちますが、後の紛争を避けるため、必ず贈与契約書を作成するようにしましょう。また、名義変更手続きでは「登記原因証明情報」という書類が必要となりますが、贈与契約書を作成した場合、贈与契約書を登記原因証明情報として提出することができます。贈与契約書を法務局に提出する場合、原本還付するようにして、手元に原本を残すようにしましょう。

以下が贈与契約書の例です。

 

贈与契約書

大阪太郎(以下「甲」という。)と浪速花子(以下「乙」という。)は、以下の通り贈与契約を締結した。

第1条 甲は、甲の所有する下記の財産(以下「本件不動産」という。)を乙に贈与することを約し、乙はこれを承諾した。

【土地】  所  在  〇〇県〇〇市〇〇町

      番  地  〇〇

      地  目  宅地

      地  積  〇〇㎡

【建物】  所  在  〇〇県〇〇市〇〇町

      家屋番号  〇番〇号

      種  類  居宅

      構  造  木造ストレート葺2階建

      床 面 積  1階 〇〇㎡

             2階 〇〇㎡

第2条 甲は、第1条に基づき贈与した財産を、令和〇年〇月〇日までに、乙へ引き渡すものとする。また、その所有権移転登記を行う。所有権移転登記手続に関する一切の費用は乙の負担とする。

第3条 本件不動産に係る公租公課は、所有権移転登記の日までに相当する部分は甲の負担とし、その翌日以降に相当する部分は乙の負担とする。

この契約を締結する証として、この証書を2通作成し、甲乙双方が署名捺印の上、各1通を保管するものとする。

令和〇年〇月〇日

(1)住所 大阪市阿倍野区〇〇町〇番地〇

         氏名 大阪太郎 ㊞

(2)住所 大阪市中央区〇〇町〇番地〇

         氏名 浪速花子 ㊞

 

その土地や建物の所在地などの情報を正確に記載する必要があるため、あらかじめ法務局で「登記事項証明書」を取得しましょう。

 

次に名義変更の登記となります。贈与したことを明らかにするため、対象となる不動産を管轄する法務局で名義変更の登記を申請します。登記申請は専門家である司法書士に依頼するのが一般的です。申請に必要な書類は以下のとおりです。

 

・登記申請書

・登記識別情報又は登記済証(一般的に権利書と呼ばれる書類)

・贈与する土地の固定資産評価証明書

・登記原因証明情報(贈与契約書など)

・贈与者の印鑑証明書

・受贈者の住所証明情報(住民票など)

・司法書士に委任する場合は委任状

 

生前贈与にかかる税金

贈与税

暦年贈与(通常の贈与、1年ごとの合計額で申告が必要)の場合、基礎控除である110万円を超えた金額に対して、贈与税がかかります。贈与の税率は、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与された場合の特例税率と、それ以外の一般税率があり、特例税率の方が少し低くなります。

 

(一般税率)

基礎控除後の課税価格200万円
以下
300万円
以下
400万円
以下
600万円
以下
1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
3,000万円
税 率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額10万円25万円65万円125万円175万円250万円400万円

(国税庁HPより https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm)

上記の表は、「特例贈与財産用(特例税率)」に該当しない場合の贈与税の計算に使用します。例えば、兄弟間、夫婦間、親から子への贈与で子が未成年者の場合などに使用します。

(特例税率)

基礎控除後の課税価格200万円
以下
400万円
以下
600万円
以下
1,000万円
以下
1,500万円
以下
3,000万円
以下
4,500万円
以下
4,500万円
税 率10%15%20%30%40%45%50%55%
控除額10万円30万円90万円190万円265万円415万円640万円

(国税庁HPより https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm)

上記の表は、贈与により財産を取得した人(贈与を受けた年の1月1日において18歳(注)以上の者に限る。)が、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与により取得した財産に係る贈与税の計算に使用します。例えば、祖父から孫への、父から子への贈与などに使用しますが、夫の父からの贈与等には使用できません。

(注)「18歳」とあるのは、令和4年3月31日以前の贈与については「20歳」となります。

贈与税は、税務署に確定申告をした後、申告した税額を納めます。土地の価格が基礎控除(110万円)を超える場合は、贈与のあった翌年の2月1日から3月15日までの間に申告を行い、贈与税が発生する場合は3月15日までに納めます。申告期限を過ぎると加算税などのペナルティが課されるので注意しなければなりません。

 

不動産取得税

土地の不動産取得税は、取引された不動産の所在する都道府県に納税することになり、「不動産の評価額×税率(4%)」が税額となります。不動産取得税の税額は、不動産の評価額(原則として固定資産税課税台帳に登録された固定資産の評価額と同じです。つまり、固定資産税の税額算定に使用される課税標準額が用いられることになります。) に税率を掛けて算定します。税率は4%ですが、現在、土地と住宅については、軽減税率として3%が適用されています。

 

登録免許税

登録免許税は、不動産の所有権が移転したことを証明するための登記手続の際にかかる税金です。不動産を贈与した場合の税額は「固定資産税評価額×2%」です。

司法書士に贈与登記を依頼しない場合、登記手続きだけでなく登録免許税の計算も自分たちで行う必要があります。

登録免許税の計算にあたっては、まず贈与する不動産の固定資産税評価額を調べる必要があり、毎年市町村役場から送られてくる固定資産税課税明細書を確認します。もし、紛失した場合は、市町村役場(東京都23区の場合は各都税事務所)で固定資産税評価証明書を発行してもらい固定資産税評価額を確認します。

登録免許税の計算ミス防止が無いよう、多少費用がかかっても、司法書士に贈与登記一式を依頼した方がよいでしょう。

 

生前贈与の注意点

不動産の生前贈与によって贈与税が発生した場合は、納税用の現金が必要となります。贈与税には物納が認められていないため、あらかじめ贈与税納付の原資を確保しておく必要があります。

不動産の評価額が高い場合は、納税額がいくらになるのかを確認しておくと良いでしょう。

また、生前贈与によって得た利益は相続において「特別受益」と言われ、遺産分割協議の際に、特別受益を「持ち戻し」て、遺産の分け方を話し合うことになります。そのため、被相続人から相続人に対し生前贈与が行われている場合は、遺産分割協議の際に注意しましょう。

特別受益などに関するお話しについては、持ち戻しの免除や遺留分を侵害する場合など難しい部分が多々ありますので、別の機会に解説させていただきます。

 

まとめ

以上が不動産を生前贈与する場合の方法と注意点とは!?のお話でした。

ここまでのお話をまとめたものが以下の表です。

 

生前贈与・生きているうちに財産を誰かに贈るのが生前贈与であり、亡くなった後に財産を遺言などによって引き継ぐのが相続

・贈与を受けた側に贈与税がかかり、相続した側に相続税がかかる

・相続は一回限りだが、生前贈与には回数制限がないため、贈与税がかからないようになど、計画的な資金移転が可能

・生前に不動産の名義変更をすることで、希望通りの相手に確実に不動産を引き継ぐことができる

・不動産を生前贈与することで相続税を抑えることができる可能性がある

・不動産を生前贈与するためには、贈与契約書の作成や名義変更の登記などの手続きが必要

・名義変更手続きでは「登記原因証明情報」が必要

・土地や建物の所在地などの情報を正確に記載する必要があるため、あらかじめ法務局で「登記事項証明書」を取得

生前贈与にかかる税金・基礎控除である110万円を超えた金額に対して、贈与税がかかる

・基礎控除(110万円)を超える場合は、贈与のあった翌年の2月1日から3月15日までの間に申告を行い、贈与税が発生する場合は3月15日までに納める

・土地の不動産取得税は、取引された不動産の所在する都道府県に納税

・税率は4%だが、現在、土地と住宅については、軽減税率として3%

・登録免許税は、不動産の所有権が移転したことを証明するための登記手続の際にかかる税金

・不動産を贈与した場合の税額は「固定資産税評価額×2%」

・贈与を受ける不動産の固定資産税評価額を調べる必要がある

生前贈与の注意点・不動産の生前贈与によって贈与税が発生した場合は、納税用の現金が必要

・生前贈与によって得た利益は「特別受益」と言われ、遺産分割協議の際に、特別受益を「持ち戻し」て、遺産の分け方を話し合うことになる

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この記事の監修者

代表社員  柳本 良太(やなぎもと りょうた)

柳本 良太

「法律のトラブルで困っている人を助けることができる人間になりたい」という思いから18歳の時に一念発起し、2004年に宅地取引主任者試験に合格。続いて、2009年に貸金業務取扱主任者試験、司法書士試験に合格し、翌2010年に行政書士試験に合格。2010年に独立開業し、「やなぎ司法書士行政書士事務所(現:司法書士法人やなぎ総合法務事務所)」を設立し、代表社員・司法書士として「困っている人を助ける」ことに邁進する一方で、大手資格予備校講師として多くの合格者も輩出。

その後、行政書士法人やなぎKAJIグループ(現:行政書士法人やなぎグループ)を設立、桜ことのは日本語学院の開校などより広くの人のための展開を行いながら活躍中。

モットーは「顧客満足ファースト」と「すべてはお客様の喜びのために」。

 

<保有資格>

・宅地取引主任者(2004年取得)

・貸金業務取扱主任者(20009年取得)

・司法書士(2009年取得)

・行政書士(2010年取得)

<所属法人>

司法書士法人やなぎ総合法務事務所 代表社員

行政書士法人やなぎグループ 代表社員

やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役

桜ことのは日本語学院 代表理事

LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師

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