解決事例⑤:家族信託

目次
障害のある息子の将来に備えて家族信託を設定したケース
ご依頼の状況

S様(71歳・男性、大阪市西成区在住)は、知的障害のある長男(45歳)の将来を心配し、妻(69歳)と共に当事務所へ相談に来られました。
S様ご夫妻には、長男の他に長女(42歳・看護師)がいます。
長男は軽度の知的障害があり、作業所で働きながら自宅で両親と生活していました。
S様の財産は、自宅(評価額約2,800万円)、賃貸アパート1棟(評価額約4,500万円・6室)、預貯金約1,800万円でした。
「私たち夫婦が亡くなった後、長男が安心して暮らせるようにしたい。
でも、長男に財産管理は難しい」というS様。賃貸アパートの収入(月約35万円)を長男の生活費に充てたいが、管理や更新手続きができるか不安でした。
相談内容
S様ご夫妻の心配事は次の通りでした。
- 自分たちが認知症になったら、長男の世話は誰がするのか
- 長男に直接相続させても、財産管理ができず詐欺に遭うのではないか
- 賃貸アパートの管理を長女に任せたいが、どうすれば良いか
- 長男が一生困らないだけの生活費を確保したい
- 長女にも負担をかけすぎたくない
- 長男が亡くなった後の財産はどうなるのか
「長女は『お兄ちゃんの面倒は私が見る』と言ってくれているが、法的にきちんとしておかないと将来トラブルになるかもしれない」と不安を口にされました。
当事務所のサポート内容

①最適な信託スキームの設計
S様を委託者、長女を受託者、長男を第一受益者とする家族信託を提案。
S様ご夫妻が元気なうちは従来通り管理し、認知症等になった場合は長女が引き継ぐ設計としました。
長男には毎月決まった生活費が支給される仕組みを作りました。
②賃貸アパートの管理体制の構築
賃貸アパートを信託財産に含め、長女が管理できる体制を整備。
入居者対応、修繕、更新手続きなどを長女の判断で行えるようにしました。
家賃収入から月20万円を長男の生活費として確保し、残りは修繕費や将来の備えとしてプールする設計にしました。
③二次受益者の設定
長男が亡くなった後は、長女を二次受益者に指定。
「長男の面倒を見てくれた感謝の気持ち」として、残った財産は長女が相続できるようにしました。
これにより、長女も安心して長男の世話ができる環境を作りました。
④信託監督人の設置
財産額が大きいため、信託監督人として当事務所の司法書士を指定。
長女の負担を軽減しつつ、適正な財産管理を担保する体制としました。
年1回の報告書作成もサポートすることにしました。
⑤遺産分割協議書の作成と手続き
3人全員が納得する内容で遺産分割協議書を作成。
S様は東京在住のため、郵送でのやり取りで署名・押印を完了。
その後、不動産の相続登記、預貯金の解約・分配まですべて当事務所で代行しました。
⑤公正証書での契約と関係者への説明
公証役場で信託契約を締結。
その後、家族全員に信託の内容を説明し、長男にも分かりやすく「妹が君のためにお金を管理してくれる」と伝えました。
賃貸アパートの入居者にも、管理者変更の通知を行いました。
結果
信託設定から2年後、S様が脳梗塞で倒れ、その後認知症も発症しました。
しかし、家族信託のおかげで、長女がスムーズに財産管理を引き継ぐことができました。
賃貸アパートの管理も問題なく継続され、長男は毎月安定した生活費を受け取りながら、変わらず作業所に通っています。
長女は「信託があったから、お父さんが倒れても慌てずに済んだ。お兄ちゃんの生活も守れて安心」と話されています。
S様の妻も「主人が元気なうちに対策してくれたおかげで、長男の将来への不安がなくなった。長女にも感謝している」と、信託の効果を実感されています。
本事例のポイント
- 障害のある子供の生活保障には、家族信託が有効な選択肢
- 賃貸不動産を信託財産にすることで、安定的な生活費の確保が可能
- 二次受益者の設定により、介護する家族のモチベーションも維持できる
- 信託監督人を置くことで、財産管理の透明性と安全性を確保
- 元気なうちに対策することで、家族全員が安心して生活できる
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著者情報
代表 柳本 良太

- <所属>
- 司法書士法人 やなぎ総合法務事務所 代表社員
- 行政書士法人 やなぎKAJIグループ 代表社員
- やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役
- 桜ことのは日本語学院 代表理事
- LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師
- <資格>
- 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
- 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
- 2009年 司法書士試験合格
- 2010年 行政書士試験合格
















