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亡くなった父の借金が発覚し、相続放棄で解決したケース

ご依頼の状況

T様(42歳・女性、大阪市住吉区在住)は、父親が亡くなってから2か月後、消費者金融から督促状が届いたことで当事務所へ駆け込んで来られました。
T様の父親は、生前は「借金なんてない」と言っていたため、まさか借金があるとは思っていませんでした。
相続人は、T様とお兄様(45歳)、お母様の3人。
父親名義の実家には母親が住み続けており、預金は100万円程度でした。
督促状を見ると、借金の総額は約500万円。
さらに別の金融機関からも督促が来る可能性があり、T様は「このままでは母の生活も守れない」と途方に暮れていました。
相続放棄の期限まで残り1か月を切っており、一刻も早い対応が必要な状況でした。

相談内容

T様の不安と疑問は次の通りでした。

  • 本当に500万円以外に借金はないのか、全容が分からず不安
  • 相続放棄をすると実家も失うことになるのか
  • 母親だけ相続して、子供たちだけ相続放棄できるのか
  • 期限まで1か月しかないが間に合うのか
  • 相続放棄の手続きを自分でやるのは難しいのか
  • 兄が仕事で忙しく、協力してもらえるか心配

「父が亡くなって悲しみも癒えないうちに、こんな借金問題に直面するなんて。
もっと早く相談していれば良かった」と涙を浮かべながら話されました。

2 やなぎ総合法務事務所の対応

以下ではAさんの事例をどのように解決したかについて説明していきます。
まず、遺言執行者がするべきことを解説します。

遺言執行者とは、遺言者の死後に遺言の内容を実現するための手続きを行う人のことです。
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有しています。
今回は遺言で定められていましたが、定められていない場合は、家庭裁判所に選任請求することができます。
遺言書で遺言執行者に指定された方が実際に就職するかどうかはその人が決めることができます。そのため、就職を承諾する場合には、このことを明らかにするため、遺言執行者に就任した旨の通知を送ります。

 

2-1 遺言執行者就任通知

遺言執行者はすべての相続人へ遺言執行者に就任した旨を知らせる必要があるため、戸籍を集めて相続人を調査します。遺言の内容を相続人に通知しなければなりませんので、就任通知書と併せて遺言書の写しも送付します。

亡くなった方の配偶者・子が相続人となる場合、必要な戸籍は以下のとおりです。

・亡くなった方の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
・相続人の戸籍謄本
・亡くなった方の住民票除票又は戸籍附票
・相続人の住民票又は戸籍附票

相続人調査の結果、Xさんには前妻との間に子Cさんがいると判明しました。
そのため、遺言執行者AさんはBさん、Cさんへ通知書と遺言書の写しを送付しました。

その他に、相続財産目録の作成と交付も行います。
不動産権利証や預貯金通帳などの相続関係書類の所在を確認して保管し、不動産の全部事項証明書や預貯金の残高証明書を集めるなどして遺言者の相続財産を調査します。

財産目録の作成とともに、遺言の内容を実現する手続きを進めます。遺言書の内容をすべて実行したら、遺言執行の完了を通知します。

 

2-2 相続手続き

預金・有価証券について

遺言書がある場合には、次の書類が必要となります。なお、遺言による相続の場合、「遺言」の内容に応じ、手続や必要となる書類が異なります。公正証書遺言ではない場合、事前に家庭裁判所で遺言の検認が必要となりますのでご注意下さい。

・遺言書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言、自筆証書遺言保管制度以外の場合)
・被相続人(亡くなられた方)の戸籍謄本または全部事項証明(死亡が確認できるもの)
・その預金を相続される方(遺言執行者がいる場合は遺言執行者)の印鑑証明書
・遺言執行者の選任審判書謄本(裁判所で遺言執行者が選任されている場合)

戸籍の取得ができた段階で、一度銀行や証券会社へ名義人が亡くなった旨を連絡しましょう。連絡をした後に銀行等へ相続手続きに行く際は、事前の予約も必要となります。詳細は各金融機関にお問い合わせください。

相続登記について

今回の場合、次の書類が必要となります。
今回の遺言は遺言執行者が定められていたため必要書類は下記のようになります。

・遺言書
・検認調書または検認済証明書(公正証書遺言、自筆証書遺言保管制度以外の場合)
・被相続人(亡くなられた方)の戸籍謄本または全部事項証明(死亡が確認できるもの)
・被相続人(亡くなられた方)の戸籍附票または除票(死亡時の住所から登記事項証明書の住所までつながるもの)
・遺言で不動産を受け取る相続人の戸籍全部事項証明書
・遺言で不動産を受け取る相続人の住民票
・不動産の評価証明書(固定資産税の納税通知書でも代用できます)

 

2-3 遺言執行完了通知

遺言執行者のAさんは、遺言のとおりに相続手続きを完了した後、遺言執行完了通知をBさんとCさんに送付しました。その後、CさんからAさんに対し遺留分を請求するとの連絡が入りました。

遺留分とは
遺留分とは、被相続人(亡くなった人)の兄弟姉妹以外の近しい関係にある法定相続人に最低限保障される遺産取得分です。
子どもや配偶者などの近親者は、被相続人が亡くなったときに財産を相続する権利を持っており、この権利は遺言によっても奪うことはできません。

遺留分はあくまで「権利」なので、請求するかどうかはその相続人次第です。
財産を取得しない相続人がそのことについて納得していれば、問題とはなりません。

遺留分に満たない遺産しか取得できなかった相続人は、遺産を多く取得した者に対して「遺留分侵害額請求」を行うことにより、不足分の金銭の支払いを受けられます。

遺留分が認められる相続人は、配偶者、子ども・孫などの「直系卑属」、親・祖父母などの「直系尊属」です。
兄弟姉妹や甥姪には、遺留分が認められません。

遺留分の割合は以下の表のようになります。

相続人遺留分の合計

遺留分が占める割合

相続人ごとの遺留分
配偶者父母兄弟姉妹
配偶者のみ1/21/2
配偶者と子1/21/41/4
配偶者と父母1/22/61/6
配偶者と兄弟姉妹1/21/2権利なし
子のみ1/21/2
父母のみ1/31/3
兄弟姉妹のみ無し権利なし

 

今回の事案の場合、相続人は子ども3人なので、CさんはXさんの財産の6分の1を遺留分として請求することができます。
Aさんは遺留分の金額を算出し、Cさんに提示されたところ、Cさんはその金額に納得され、Cさんの口座へ振込まれることとなりました。
その際に、遺留分に関しての合意書を取り交わされておられます。
遺言執行者としてCさんにも法定の通知を送っておられたことから遺留分の話し合いの土台がしっかりとできていたため、早期に合意がまとまり、裁判上の請求まで行かずに済んだ事例となります。

 

3 体験者の感想

以下は事件が完了したときのAさんと事務所の担当者との会話です。

やなぎ総合法務事務所:「お預かりしていた書類と取得させていただいた公文書を返却させていただきます。問題がなければ受領書にサインをお願いします。」

Aさん:「ありがとうございます。まさか、父に前妻がいて、子どもがいるとは思いもしませんでした。まさか遺留分の請求があるとは・・・・・」

やなぎ総合法務事務所:「公正証書遺言を作成することは確かに意思を示す手段として有効なのですが、遺留分を侵害する額を遺贈した場合、相続人から遺留分を請求する可能性があるので注意が必要です。また、「知らない相続人がいて困惑した」ということがないようにご家族で話し合うことも有効だと思います。」

 

4 まとめ

今回は相続遺留分を巡るトラブルに関する事例でした。
相談者のAさんが、亡くなった父Xさんの遺言を基に相続手続きを進めていたところ、知らない姉Cさんから遺留分を請求されました。
父Xさんの残された公正証書の遺言では全財産をAさんに相続させると記載されていましたが、戸籍調査で異母姉の存在が判明。遺言執行者としてやなぎ総合法務事務所は、相続人全員に手続完了通知を送付。Cさんは遺留分を請求し、合意の上、金銭が支払われました。話し合いの重要性が示された事例です。

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著者情報

代表 柳本 良太

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    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所