スマートフォンの画面を見ながら困った表情の女性

連絡が取れない相続人がいても、その人を外した遺産分割協議は無効です。まず戸籍の附票で住所を調べ、それでも所在がつかめなければ不在者財産管理人の選任を申し立てます。連絡はつくのに応じてもらえない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停が次の手段になります。

◆ この記事でわかること

  1. 連絡が取れない相続人を外して手続きを進められない理由と、無効になる範囲
  2. 戸籍の附票による住所調査、不在者財産管理人と失踪宣告の使い分け
  3. 放置した場合のリスクと、協議が止まっている間にできる3つの手続き

※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年9月

目次

連絡が取れない相続人を外して遺産分割はできますか?

できません。相続人が1人でも欠けた遺産分割協議は無効になります。民法907条が、遺産の分割は共同相続人の協議によると定めているためです。

全員の合意がなければ協議は成立しない

遺産分割協議は、相続人全員が参加して合意することで成立します。3人のうち2人で決めた内容は、残りの1人が後から異議を唱えれば覆ります。

「連絡がつかないのだから仕方ない」という事情は考慮されません。無効な協議書をもとに不動産の名義を変えても、後日やり直しを求められる可能性が残ります。

金融機関も法務局も書類を受け付けない

実務上も進みません。銀行の窓口では、相続人全員の署名と実印、印鑑証明書の提出を求められます。1人分でも欠けていれば預金は払い戻されません。

法務局も同じです。法定相続分と異なる割合で相続登記を申請するには、全員が署名した遺産分割協議書が必要になります。

勝手に進めるとトラブルが長期化する

署名を代筆する、実印を勝手に作る。こうした対応は私文書偽造にあたるおそれがあり、登記を巻き戻す訴訟に発展しかねません。

時間はかかっても、法律で認められた手順を踏むほうが結果的に早く終わります。

「連絡が取れない」にはどのパターンがありますか?

大きく2つに分かれます。住所そのものが分からないパターンと、住所は分かるが返事がもらえないパターンです。取るべき手段がまったく違います。

自分のケースがどちらかを見極めるところから始めてください。

パターン状況取るべき手段
① 住所が分からないどこに住んでいるか不明。手紙も出せない戸籍の附票で住所を調査する
② 住所は分かるが所在不明手紙が宛先不明で返送される/実際に住んでいない不在者財産管理人の選任を申し立てる
③ 生死が7年以上不明長期間行方が分からず、生存の確認も取れない失踪宣告を申し立てる
④ 連絡はつくが応じない手紙は届いているが返事がない/協議を拒否している遺産分割調停を申し立てる

まずは①か④かを切り分ける

多くの方が最初につまずくのがここです。「連絡が取れない」と一言でいっても、住所を知らないだけなのか、届いているのに無視されているのかで進め方は正反対になります。

住所が分からないだけなら、調査すれば解決します。届いているのに応じてもらえないなら、裁判所を使う流れになります。

面識のない相続人が出てくることもある

被相続人に前婚があり、その子が相続人になっている。兄弟姉妹が相続人で、甥や姪まで範囲が広がっている。こうしたケースでは、相手の住所どころか存在すら知らなかったという状況が起こります。

この場合も手順は同じです。戸籍をたどって相続人を確定し、住所を調べ、連絡を取る。順番を飛ばすことはできません。

住所が分からない相続人はどう調べますか?

「戸籍謄本」と書かれた書類を両手で持つ手元

戸籍の附票を取得すれば住所が分かります。戸籍の附票とは、その戸籍に入っている間の住所の履歴が記録された書類のことです。

STEP 1被相続人の戸籍をたどって相続人を確定する

被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本・除籍謄本を集め、法定相続人が誰かを確定します。ここで初めて存在を知る相続人が出てくることもあります。

STEP 2相続人の本籍地を特定する

戸籍をたどる過程で、各相続人の本籍地が分かります。戸籍の附票は本籍地の市区町村でしか取得できません。

STEP 3本籍地の市区町村で戸籍の附票を請求する

郵送でも請求できます。取得できるのは本人・配偶者・直系親族が原則です。兄弟姉妹など直系でない場合は、相続手続きで必要である旨を疎明する書類を求められます。

STEP 4判明した住所宛てに手紙を出す

いきなり電話や訪問をすると警戒されます。まずは書面で事情を伝えるのが定石です。

司法書士なら職務上請求で取得できる

相続人本人が請求すると、続柄によっては断られたり、追加の説明を求められたりします。司法書士や弁護士は職務上請求という制度で、業務に必要な範囲で戸籍や附票を取得できます。

相続人が5人、6人と多い場合、それぞれの本籍地へ個別に請求するのは相当な手間です。まとめて依頼したほうが早く終わります。

【注意】

戸籍の附票の除票は、2019年6月20日より前は保存期間が5年でした。それ以前に除票となった記録は取得できない場合があります。転居から時間が経っているほど、調査は難しくなります。

連絡はつくのに返事をくれない相続人にはどう対応しますか?

まずは書面で丁寧に事情を伝え、それでも応じてもらえなければ家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。

最初の手紙で伝えるべき4つのこと

いきなり協議書に署名を求めると、警戒されて話が止まります。最初の手紙には次の内容を入れてください。

  • 誰が亡くなり、自分とその方がどういう関係か
  • 相手が法律上の相続人であること、戸籍で確認した経緯
  • 財産の内容と、現時点で考えている分け方の案
  • 返事の期限と、複数の連絡手段(電話・メール・返信用封筒)

押しつけるのではなく、判断材料を渡す書き方にしてください。相手にとっては突然届いた見知らぬ手紙です。

無視される理由は「不信感」であることが多い

返事がない理由は、面倒だからとは限りません。「損をさせられるのではないか」という不信感が背景にあるケースが目立ちます。

財産目録を添えて全体像を開示する、法定相続分に沿った案を示す。情報を先に出すことで返事が来るようになった例は少なくありません。

応じてもらえなければ遺産分割調停へ

書面を送っても反応がないなら、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てます。申立先は、相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。

調停では調停委員が間に入り、当事者は別々の部屋で話を聞かれます。顔を合わせずに済むため、感情的な対立があるケースでも進めやすくなります。

調停がまとまらなければ審判に移行し、裁判官が分け方を決定します。相手が一切出頭しない場合も、審判で結論を出すことが可能です。

行方不明の相続人がいる場合はどうすればよいですか?

事務所で書類を前に相談者へ説明する男性の担当者

不在者財産管理人の選任か、失踪宣告を家庭裁判所に申し立てます。生死不明の期間が7年未満なら前者、7年以上なら後者が選択肢です。

2つの制度の違いを整理します。

不在者財産管理人失踪宣告
根拠民法25条民法30条
要件従来の住所を去って戻る見込みがない生死不明が7年以上(危難の場合は1年以上)
効果管理人が本人の代わりに協議へ参加死亡したものとみなされる
協議の当事者選任された管理人行方不明者の相続人
期間の目安選任まで1〜3ヶ月程度申立てから確定まで8ヶ月〜1年程度
主な費用収入印紙800円+予納金20万〜100万円程度収入印紙800円+官報公告料

不在者財産管理人は予納金の負担が大きい

不在者財産管理人は、行方不明者に代わって財産を管理する人です。申立先は、不在者の従来の住所地を管轄する家庭裁判所になります。

注意が必要なのは予納金です。管理人の報酬や管理費用にあてるため、申立人が20万〜100万円程度を裁判所に預けます。行方不明者に十分な財産があれば、そこから支払われて予納金が戻ることもあります。

協議に参加させるには権限外行為許可が必要

管理人が選任されても、それだけでは遺産分割協議に参加できません。遺産分割は財産を処分する行為にあたるため、家庭裁判所に権限外行為許可を申し立てる必要があります。

許可の判断では、行方不明者の取り分が法定相続分を下回っていないかが見られます。管理人が不利な内容に同意することは想定されていません。

失踪宣告は時間がかかるが費用は抑えられる

生死不明の状態が7年以上続いているなら、失踪宣告という方法があります。宣告が確定すると、その人は法律上死亡したものとして扱われます。

公告の手続きが必要なため、申立てから確定まで8ヶ月〜1年程度かかります。ただし予納金は不要で、費用は不在者財産管理人より抑えられます。

宣告が確定すると、行方不明者の相続人が代わりに遺産分割協議へ参加します。相続関係が一段複雑になる点は押さえておいてください。

連絡が取れないまま放置するとどうなりますか?

預貯金が引き出せない状態が続くうえ、10年を過ぎると特別受益や寄与分を主張できなくなります。時間が経つほど選択肢は狭まります。

相続開始から10年で主張できる内容が制限される

2023年4月1日に施行された民法904条の3により、相続開始から10年が経過すると、原則として特別受益や寄与分を主張できなくなりました。

特別受益とは生前に受けた贈与などを相続分に反映させる仕組み、寄与分とは被相続人の財産維持に貢献した分を上乗せする仕組みです。10年を過ぎると、これらを考慮しない法定相続分だけで分けることになります。

2023年4月1日より前に発生した相続には経過措置があり、猶予期限は2028年3月31日です。すでに10年近く経っている相続をお持ちの方は、この日付を意識してください。

相続人が増えて手続きがさらに難しくなる

放置している間に相続人の1人が亡くなると、その方の相続人が新たに加わります。数次相続と呼ばれる状態です。

当初3人だった協議の相手が、10年後には7人、8人に増えることがあります。連絡が取れない人が1人いる状態でさえ難航しているのに、面識のない相続人がさらに増えるわけです。

預貯金は凍結されたまま、不動産も動かせない

遺産分割が終わらなければ、預金口座は凍結されたままです。不動産も売却できず、担保に入れることもできません。

固定資産税の負担だけは毎年発生します。空き家であれば管理の手間も続きます。

専門家としての見解・アドバイス

これまで相続のご相談をお受けしてきて、もっとも多いのが「揉めたくないので、そのままにしている」というケースです。お気持ちは理解できますが、放置は何も解決しません。むしろ相手の生活状況が変わり、転居して住所が分からなくなる。10年ルールで主張できる範囲が狭まる。時間は不利にしか働きません。
もう1つ多いのが、相続人ご本人が直接連絡を取って感情的にこじれてしまうパターンです。「お金目当てだと思われたくない」という遠慮から曖昧な手紙になり、かえって不信感を持たれる。あるいは再三の催促が圧力と受け取られる。第三者である司法書士の名前で事情を説明する文書をお送りすると、返事をいただけることが実際にあります。
当事務所では、まず戸籍の附票による住所調査を行い、判明した住所へ財産目録を添えたご案内を送る流れを取っています。それでも応答がない場合は、不在者財産管理人の申立てか調停かを、財産の規模と行方不明の期間から判断してご提案します。初回のご相談は無料です。

協議が止まっている間にできることはありますか?

3つあります。預貯金の仮払い、相続人申告登記、相続税の分割見込書の提出です。いずれも他の相続人の同意なしに進められます。

預貯金の仮払い制度で当面の資金を確保する

遺産分割が終わっていなくても、相続人が単独で預金の一部を払い戻せる制度があります。民法909条の2による仮払い制度です。

引き出せる金額は「相続開始時の預貯金額×1/3×その相続人の法定相続分」で計算します。同じ金融機関からは150万円が上限です。

たとえば口座に900万円あり、法定相続分が2分の1なら、900万円×1/3×1/2で150万円になります。葬儀費用や当面の生活費にあてられます。

相続人申告登記で登記義務を果たす

相続登記は2024年4月1日から義務化され、3年以内に申請しないと10万円以下の過料の対象になります。遺産分割がまとまらなければ登記もできない、と思われがちですが方法があります。

相続人申告登記は、相続人の1人が単独で法務局に申し出る手続きです。自分が相続人であることを示す戸籍を提出するだけで、遺産分割協議書も他の相続人の同意も不要です。登録免許税もかかりません。

これで申し出た人の登記義務は果たしたことになります。ただし所有権を公示するものではないため、売却や担保設定はできません。遺産分割が成立したら、その日から3年以内に通常の相続登記を行う必要があります。

相続税は未分割のまま申告し、分割見込書を出す

相続税の申告期限は10ヶ月です。分割が終わっていなくても、期限までに法定相続分で計算した申告をしなければなりません。

このとき「申告期限後3年以内の分割見込書」を一緒に提出してください。3年以内に分割がまとまれば、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を適用し、更正の請求で払い過ぎた税金を取り戻せます。

この書類を出し忘れると、後から分割できても特例が使えません。税額が大きく変わるため、税理士に確認しながら進めてください。

専門家に依頼するとどのように進みますか?

住所調査から始めて、状況に応じて手紙・申立て・調停へと段階的に進みます。5つのステップで整理します。

STEP 1相続人と財産を確定する

被相続人の出生から死亡までの戸籍を収集し、相続人を確定します。同時に不動産と預貯金を調査して財産目録を作成します。1〜2ヶ月程度かかります。

STEP 2戸籍の附票で住所を調査する

連絡が取れない相続人の本籍地から附票を取得し、現住所を特定します。

STEP 3財産目録を添えた案内を送付する

判明した住所へ、事情と財産の内容を説明する書面を送ります。返信用封筒を同封し、返事がしやすい形にします。

STEP 4反応に応じて次の手段を選ぶ

返事があれば通常どおり協議を進めます。宛先不明で返送されたら不在者財産管理人の申立て、届いているのに無応答なら調停の申立てを検討します。

STEP 5協議成立後に名義変更を行う

遺産分割協議書または調停調書をもとに、相続登記と預貯金の解約を進めます。

大阪市内の60代女性/音信不通の弟と連絡を取り、5ヶ月で相続登記まで完了

【ご相談内容】

お母様が亡くなり、大阪市内のご自宅と預貯金約1,800万円を相続することになりました。相続人はご相談者と弟さんの2人ですが、弟さんとは15年以上音信不通。携帯番号は使われておらず、最後に聞いていた住所にも住んでいませんでした。ご自身で手紙を出したものの宛先不明で戻ってきたとのことでした。

【対応結果】

まず戸籍の附票を取得したところ、弟さんは県外へ2度転居しており、現住所が判明しました。当事務所名義で、お母様が亡くなった経緯・財産目録・法定相続分どおりの分割案を記載した書面を送付。2週間後に弟さんからお電話をいただき、分割案に同意していただけました。遺産分割協議書を郵送でやり取りし、ご自宅の相続登記と預貯金の解約を完了。ご相談から5ヶ月で全ての手続きが終わっています。不在者財産管理人の申立ては不要でした。

相続人と連絡が取れない場合のよくある質問

ご相談の際によくいただく質問をまとめました。

Q1. 連絡が取れない相続人を無視して手続きを進めたらどうなりますか?

その遺産分割協議は無効になります。金融機関も法務局も、相続人全員の署名がない書類は受け付けません。仮に手続きが通っても、後から異議を申し立てられればやり直しになります。

Q2. 戸籍の附票は相続人本人でも取得できますか?

本人・配偶者・直系親族なら請求できます。兄弟姉妹や甥姪の附票を取るには、相続手続きに必要である旨を疎明する書類が求められます。司法書士に依頼すれば職務上請求で取得できます。

Q3. 相手が調停に出頭しない場合はどうなりますか?

調停は不成立となり、審判に移行します。審判では裁判官が遺産の分け方を決定します。相手が出頭しなくても手続きは進み、結論が出ます。

Q4. 不在者財産管理人の予納金は返ってきますか?

行方不明者に十分な財産があれば、そこから管理費用が支払われて残額が返還されます。財産が少ない場合は予納金から充当され、戻らないこともあります。

Q5. 行方不明になって何年経てば失踪宣告できますか?

生死不明の状態が7年以上続いていることが要件です。事故や災害など危難に遭遇した場合は1年以上で申し立てられます。申立てから確定までは8ヶ月〜1年程度かかります。

Q6. 連絡が取れないまま相続登記の3年の期限が来そうです。

相続人申告登記を利用してください。相続人が単独で法務局に申し出る手続きで、他の相続人の同意も遺産分割協議書も不要です。登録免許税もかからず、これで登記義務を果たしたことになります。

Q7. 住所は分かるのに手紙が返ってきます。どうすればよいですか?

住民票上の住所に実際は住んでいない状態です。法律上の行方不明者にあたるため、不在者財産管理人の選任を家庭裁判所に申し立てる流れになります。

まとめ|連絡が取れなくても手続きを進める方法はある

この記事のポイントをまとめます。

  • 相続人を1人でも欠いた遺産分割協議は無効で、金融機関も法務局も受け付けない
  • 住所が分からないだけなら、戸籍の附票を取得すれば判明することが多い
  • 所在不明なら不在者財産管理人、生死不明が7年以上なら失踪宣告を申し立てる
  • 連絡はつくが応じない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停から審判へ進む
  • 放置すると相続開始から10年で特別受益・寄与分を主張できなくなる
  • 協議が止まっていても、預貯金の仮払い・相続人申告登記・分割見込書は単独で進められる

連絡が取れない相続人がいる相続は、ご家族だけで進めるには負担が大きいものです。戸籍の附票をどこに請求するか、手紙にどこまで書くか、不在者財産管理人と調停のどちらを選ぶか。判断のたびに手が止まります。

司法書士法人やなぎ総合法務事務所では、相続人の調査から住所の特定、書面の送付、家庭裁判所への申立書類の作成、相続登記までを一括してお引き受けしています。相続のご相談実績は15,000件を超えます。初回のご相談は無料ですので、まずは状況をお聞かせください。

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著者情報

代表 柳本 良太

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    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所