軽い認知症の相続人がいる場合の遺産分割|進め方と注意点

軽い認知症であっても、協議の内容を理解して判断できる意思能力があれば遺産分割に参加できます。認知症という診断がついただけで、ただちに参加できなくなるわけではありません。判断能力が不十分な場合は、成年後見制度を利用して手続きを進めます。
◆ この記事でわかること
- 軽い認知症の相続人が遺産分割協議に参加できるかどうかの判断基準
- 成年後見制度の3つの類型と、申立てから選任までの費用と期間
- 後見を使わずに進められるケースと、2026年に成立した法改正の内容
※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年9月
目次
- 軽い認知症でも遺産分割協議に参加できますか?
- 意思能力があるかどうかは何で判断しますか?
- 意思能力がない人が参加した遺産分割協議はどうなりますか?
- 認知症の相続人がいると、ほかにどんな手続きが止まりますか?
- 成年後見制度とはどういう仕組みですか?
- 成年後見制度を使うとどのくらい費用がかかりますか?
- 成年後見を使わずに進められるケースはありますか?
- 相続人が後見人になる場合の注意点は何ですか?
- 2026年の法改正で成年後見制度はどう変わりますか?
- 亡くなった方が認知症だった場合、遺言書は有効ですか?
- 認知症になる前にできる対策はありますか?
- 軽い認知症と相続に関するよくある質問
- まとめ|まず診断書で現状を確かめる
軽い認知症でも遺産分割協議に参加できますか?
参加できる場合があります。判断の基準は診断名ではなく、協議の内容を理解して自分の意思を示せるかどうかです。
診断がついただけでは参加できなくならない
「認知症と診断されたから、もう手続きはできない」と考えてご相談に来られる方が多くいらっしゃいます。法律はそのような線引きをしていません。
問題になるのは意思能力です。意思能力とは、自分がしようとしている行為の意味と結果を理解できる能力のことをいいます。認知症の進行度合いは人それぞれで、軽度であれば意思能力が認められることは十分にあります。
求められるのは「この協議の意味が分かるか」
遺産分割協議で必要なのは、次の内容を理解できることです。
- 父(母)が亡くなり、財産を相続人で分ける話し合いであること
- どのような財産があり、おおよそどのくらいの価値があるか
- 自分が何を受け取り、何を受け取らないことになるか
- 協議書に署名・押印すると、その内容で確定すること
日付や場所を思い出せないことがあっても、この4点を理解できていれば参加できる可能性があります。逆に、財産の存在そのものが分からない状態であれば難しくなります。
同じ人でも場面によって判断が変わる
意思能力は、行為の複雑さとの関係で判断されます。単純な買い物はできても、複雑な遺産分割は理解できないということが起こりえます。
預貯金だけを均等に分ける協議と、不動産の評価や代償金が絡む協議とでは、求められる理解の水準が違います。「前に契約書にサインできたから大丈夫」とは限りません。
意思能力があるかどうかは何で判断しますか?

医師の診断書が中心的な資料になります。ただし最終的な判断は医学的なものではなく、法的なものです。
医師の診断書が出発点になる
かかりつけ医や専門医に、判断能力についての診断書を作成してもらいます。成年後見の申立てで使う診断書の書式が家庭裁判所のウェブサイトで公開されており、これを利用するのが一般的です。
診断書には、判断能力について「支援を受けなければ判断できない」「常に支援が必要」といった区分が記載されます。どの区分になるかが、後見・保佐・補助のどれを選ぶかの目安になります。
日常のやり取りも判断材料になる
診断書だけで決まるわけではありません。次のような事情も総合的に考慮されます。
- 普段の会話が成り立っているか、質問に的確に答えられるか
- 自分の財産の内容をおおむね把握しているか
- 一人で買い物や通院ができているか
- 他の相続人との関係や、これまでの経緯を説明できるか
ご家族から見た日常の様子は、専門家が方針を判断するうえで重要な情報です。面談の際にできるだけ具体的にお聞かせください。
迷ったら協議を進める前に確認する
危ういのは、判断があいまいなまま協議を成立させてしまうことです。後から無効を主張されると、やり直しの負担ははるかに大きくなります。
少しでも不安があれば、協議書を作る前に診断書を取得しておいてください。結果として意思能力が認められるなら、それが協議の有効性を裏づける資料にもなります。
意思能力がない人が参加した遺産分割協議はどうなりますか?
無効になります。民法3条の2が、意思能力を欠く状態でした法律行為は無効と定めているためです。
一部が無効なら協議全体がやり直しになる
遺産分割協議は相続人全員の合意で成立します。1人の合意が無効であれば、協議そのものが成立していないことになります。
「その人の取り分だけ直せばいい」という話にはなりません。全員で最初から話し合い直すことになります。
登記も預金の払い戻しもやり直しになる
無効な協議書をもとに不動産の名義を変えていた場合、その登記を抹消する手続きが必要になります。預金を分配していれば、返還をめぐる争いに発展しかねません。
相続税の申告を済ませていれば、申告のやり直しも生じます。時間も費用も、最初から適切に進めた場合を大きく上回ります。
後から問題になるのは相続の数年後が多い
協議の直後に無効が主張されることは、実はあまりありません。問題が表面化するのは、その相続人が亡くなって次の相続が起きたときです。
次の世代が過去の協議書を見て「当時、祖母は施設に入っていたのでは」と指摘する。こうした形で何年も経ってから争いになります。将来に不安を残さないためにも、最初の判断が重要です。
【注意】
認知症の相続人を除いて協議書を作る、家族が代わりに署名するといった対応は避けてください。協議が無効になるだけでなく、私文書偽造にあたるおそれがあります。
認知症の相続人がいると、ほかにどんな手続きが止まりますか?
預貯金の解約、不動産の売却、相続税の特例の3つが止まります。遺産分割協議だけの問題ではありません。
預貯金の解約と不動産の売却ができない
金融機関で口座を解約するには、相続人全員の署名と実印、印鑑証明書が必要です。認知症の相続人がいると、この書類がそろいません。
不動産も同じです。名義を相続人に変えたとしても、共有者の1人に意思能力がなければ売買契約を結べません。実家を売って施設費用にあてる計画が、ここで止まってしまいます。
葬儀費用や当面の生活費が必要な場合は、預貯金の仮払い制度が使えます。相続人が単独で、預金額の3分の1に法定相続分を掛けた金額まで払い戻せる仕組みです。1つの金融機関あたり150万円が上限になります。
相続税の特例が使えなくなるおそれがある
配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例は、原則として申告期限内に遺産分割が成立していることが条件です。協議が止まると、これらが使えず税額が跳ね上がります。
回避する方法があります。期限内に法定相続分で計算した申告を行い、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて提出してください。3年以内に分割がまとまれば、更正の請求で払い過ぎた分を取り戻せます。
この書類を出し忘れると、後から分割できても特例は適用されません。申告期限は10ヶ月です。
相続登記の3年の期限は止まらない
2024年4月1日から相続登記が義務化されました。不動産を取得したことを知った日から3年以内に申請しないと、10万円以下の過料の対象になります。
協議が進まないことは、期限が延びる理由になりません。この場合は相続人申告登記を利用してください。相続人の1人が単独で法務局に申し出る手続きで、他の相続人の同意も協議書も不要です。登録免許税もかかりません。
成年後見制度とはどういう仕組みですか?
判断能力が不十分な方に代わって、財産の管理や契約を行う人を家庭裁判所が選ぶ制度です。判断能力の程度に応じて3つの類型に分かれます。
| 類型 | 対象となる判断能力の程度 | 選ばれる人 | 遺産分割での関わり方 |
|---|---|---|---|
| 後見 | 判断能力が欠けているのが通常の状態 | 成年後見人 | 本人に代わって協議に参加する |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分 | 保佐人 | 本人の協議参加に同意を与える |
| 補助 | 判断能力が不十分 | 補助人 | 申立てで定めた範囲で同意や代理を行う |
軽い認知症なら補助や保佐にあたることが多い
「成年後見」という言葉が広く知られているため、すべてが後見類型だと思われがちです。実際には3つの類型があり、軽度の認知症であれば補助や保佐が選ばれるケースが目立ちます。
補助や保佐では、本人の権利が制限される範囲が後見より狭くなります。本人が自分で決められる部分を残しながら、必要な場面だけ支援を受ける形です。
申立ては家庭裁判所に行う
本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。申立てができるのは本人、配偶者、四親等内の親族などです。
提出後、家庭裁判所による本人との面接や親族への意向照会を経て、審判が下されます。申立てから選任までは2〜4ヶ月程度が目安です。遺産分割を急いでいても、この期間は短縮できません。
後見人に親族が選ばれるとは限らない
申立ての際に候補者を挙げることはできますが、誰を選ぶかは家庭裁判所が決めます。財産の額が大きい場合や親族間に対立がある場合、司法書士や弁護士などの専門職が選ばれることがあります。
専門職が選ばれると、月々の報酬が発生します。この点は申立ての前に理解しておいてください。
成年後見制度を使うとどのくらい費用がかかりますか?
申立て時の実費は1万円前後ですが、専門職が選ばれた場合は月2万〜6万円程度の報酬が継続して発生します。
申立てにかかる費用の内訳は次のとおりです。
| 項目 | 金額の目安 |
|---|---|
| 申立手数料(収入印紙) | 800円 |
| 後見登記手数料(収入印紙) | 2,600円 |
| 連絡用の郵便切手 | 4,000円程度 |
| 医師の診断書 | 数千円〜1万円程度 |
| 登記されていないことの証明書 | 300円 |
| 鑑定費用(必要な場合のみ) | 10万〜20万円程度 |
継続的にかかるのは後見人への報酬
負担として大きいのは、申立て費用ではなく毎月の報酬です。家庭裁判所が本人の財産額などを考慮して決定します。
東京家庭裁判所が公表している目安では、管理する財産が1,000万円から5,000万円以下で月3万〜4万円、5,000万円を超える場合で月5万〜6万円とされています。親族が後見人になった場合、報酬を受け取らない選択もできます。
遺産分割が終わっても後見は続く
ここがもっとも誤解されやすい点です。遺産分割のために後見を申し立てたとしても、協議が終わったら終了するわけではありません。
現行の制度では、原則として本人が亡くなるまで後見が続きます。専門職が後見人で月3万円の報酬なら、10年で360万円、20年で720万円の負担です。
遺産分割のためだけに申し立てるかどうかは、この総額まで含めて考える必要があります。
成年後見を使わずに進められるケースはありますか?

3つあります。遺言書がある場合、法定相続分どおりに分ける場合、本人に意思能力が認められる場合です。
遺言書があれば遺産分割協議は不要
有効な遺言書があれば、その内容どおりに手続きを進められます。誰が何を取得するかが決まっているため、相続人全員で話し合う必要がありません。
認知症の相続人がいても、遺言執行者を指定しておけば手続きが止まりません。これが最も確実な備えです。
法定相続分どおりなら協議なしで登記できる
遺産分割協議をせず、法律で決まった割合のまま相続登記をする方法があります。協議を経ないため、意思能力の問題が生じません。
ただし不動産が共有状態になります。売却するには共有者全員の同意が必要で、結局そこで後見が必要になることがあります。当面の登記義務を果たす手段として使い、後の処分は改めて検討する形になります。
本人に意思能力が認められれば協議に参加できる
冒頭でご説明したとおり、診断書を取得して意思能力が確認できれば、そのまま協議に参加していただけます。
協議の場では、内容をかみ砕いて説明し、本人の言葉で意思を確認する手順を踏んでください。説明した内容と本人の返答を記録に残しておくと、後日の裏づけになります。
相続放棄をさせたい場合は後見が必要になる
注意が必要なのは相続放棄です。相続放棄も法律行為なので、意思能力がなければ本人が単独で行えません。
借金のほうが多い相続で、認知症の方に放棄をしてもらう必要がある場合は、後見人を通じて手続きすることになります。3ヶ月の期限があるため、早めに動いてください。
相続人が後見人になる場合の注意点は何ですか?
自分も相続人である人が後見人を務めると利益相反になります。その場合は家庭裁判所に特別代理人の選任を申し立てる必要があります。
同じ相続で立場が2つになると代理できない
たとえば母が認知症で、長男が母の成年後見人になっている。父の相続で母と長男がともに相続人という状況を考えてください。
長男が母を代理して協議に参加すると、自分と自分が代理する相手の利害が正面から対立します。民法860条が826条を準用しており、こうした場合は特別代理人を選任することになります。
後見監督人がいれば監督人が代理する
すでに後見監督人が選ばれている場合は、監督人が本人を代表します。特別代理人の選任は不要です。
保佐人や補助人に代理権が付与されているケースで利益相反が生じたときは、臨時保佐人・臨時補助人の選任を申し立てます。
特別代理人は法定相続分を下回る合意に応じない
特別代理人は本人の利益を守る立場です。本人の取り分が法定相続分を下回る内容には、原則として同意しません。
「母の分は長男がまとめて管理する」といった、家族の中では自然に見える分け方が通らないことがあります。後見を使う以上、法定相続分に沿った分割になると考えておいてください。
専門家としての見解・アドバイス
これまで相続のご相談をお受けしてきて、もっとも多い誤解が「認知症=手続きができない」というものです。実際には、診断書を取ってみたら意思能力が認められ、後見の申立てをせずに協議が成立したケースが相当数あります。まず診断書を取得して現状を確かめる。ここを飛ばして後見ありきで動くと、必要のない負担を長期間背負うことになりかねません。
逆に危ういのが、家族の判断だけで「まだ大丈夫だろう」と協議を進めてしまうケースです。その場では誰も異議を唱えません。問題が出るのは数年後、その方が亡くなって次の相続が始まったときです。前の協議書の有効性が争点になり、不動産の名義を戻すところからやり直しになった事例もあります。
当事務所では、まず診断書をもとに意思能力の見通しを立て、後見が必要かどうかを整理するところから始めます。必要であれば申立書類の作成までお引き受けし、不要であれば協議の進め方と記録の残し方をご案内します。相続のご相談実績は15,000件を超えており、初回のご相談は無料です。
2026年の法改正で成年後見制度はどう変わりますか?
一度始めると原則として一生続く仕組みが見直されます。改正民法は2026年6月に成立しましたが、施行は2028年ごろの見込みです。
現行制度と改正後の主な違いを整理します。
| 項目 | 現行制度 | 改正後(施行は2028年ごろ) |
|---|---|---|
| 利用期間 | 原則として本人が亡くなるまで継続 | 目的を達成し必要性がなくなれば終了できる |
| 権限の範囲 | 財産全体をまとめて管理 | 遺産分割や自宅売却など特定の行為に限定できる |
| 後見人の交代 | 交代が認められる場面は限られる | 交代の要件が緩和される見込み |
遺産分割のためだけの利用がしやすくなる
改正の狙いは、必要な場面だけ制度を使えるようにすることです。遺産分割を終えたら後見を終了する、という運用が可能になります。
現行制度で二の足を踏む理由の多くは、終わりが見えない報酬負担でした。この点が改善されれば、制度を利用しやすくなります。
今の相続手続きには現行制度が適用される
注意していただきたいのは、施行時期です。改正法が実際に動き出すのは2028年ごろとされています。
2026年9月時点で進める相続手続きには、現行の制度が適用されます。「改正を待つ」という選択は、相続登記の3年の期限や相続税の10ヶ月の期限を考えると現実的ではありません。今できる方法で進めることをおすすめします。
同じ改正で遺言のルールも変わる
この改正では、パソコンで作成する形式の遺言を認める制度も新設されました。自筆証書遺言は全文を手書きする必要がありましたが、その負担が軽くなります。
こちらも施行は同時期の見込みです。現時点で遺言を作るなら、公正証書遺言が確実な選択になります。
亡くなった方が認知症だった場合、遺言書は有効ですか?
作成した時点で遺言能力があれば有効です。認知症の診断があったというだけで、ただちに無効になるわけではありません。
判断される時点は「作成したとき」
遺言の有効性は、遺言書を作成した時点の状態で判断されます。亡くなる直前に症状が進んでいたとしても、作成時に理解できていれば有効です。
逆に、作成時にすでに判断能力を失っていれば無効になります。民法963条が、遺言をするには遺言能力が必要だと定めています。
公正証書遺言でも無効になることがある
公証人が関与していれば安心、と思われがちですがそうとは限りません。公証人は遺言能力の有無を医学的に判定する立場ではないためです。
実際に、公正証書遺言が無効とされた裁判例もあります。ただし公証人が本人の意思を確認した記録が残るため、自筆証書遺言より有効性が認められやすい傾向にあります。
争いになったときに見られる資料
遺言の有効性が争われると、次のような資料から作成時の状態が検討されます。
- 作成時期に近い診断書やカルテ、介護記録
- 要介護認定の区分と認定時期
- 遺言の内容が本人の生活実態や従来の意向と整合しているか
- 遺言書の筆跡や文章の乱れ(自筆証書遺言の場合)
遺言の内容が単純であるほど、必要とされる理解の水準は下がります。「全財産を長男に相続させる」という一文と、財産ごとに細かく割り振る内容とでは判断が変わります。
これから作るなら診断書を残しておく
軽い認知症の段階で遺言を作る場合は、作成日に近い時期の診断書を取得して保管してください。後日の争いを防ぐ資料になります。
公正証書遺言であれば、公証人に事情を伝えたうえで作成を進めます。本人の意思確認を丁寧に記録してもらうことで、有効性を裏づけやすくなります。
認知症になる前にできる対策はありますか?
公正証書遺言、家族信託、任意後見の3つが代表的です。判断能力があるうちにしか準備できません。
| 対策 | できること | 費用の目安 | 備えられる場面 |
|---|---|---|---|
| 公正証書遺言 | 財産の分け方をあらかじめ決めておく | 公証人手数料5万〜15万円程度 | 相続人に認知症の方がいても協議が不要になる |
| 家族信託 | 財産の管理を家族に任せる契約を結ぶ | 30万〜100万円程度 | 本人の判断能力が低下しても不動産を売却できる |
| 任意後見 | 将来の後見人を自分で選んでおく | 公正証書作成2万円程度+月々の報酬 | 後見人が家庭裁判所任せにならない |
もっとも効果が大きいのは遺言書
3つの中で、相続手続きへの効果がはっきりしているのは遺言書です。協議そのものが不要になるためです。
親が元気なうちに、という話は切り出しにくいものです。ただし判断能力が落ちてからでは遺言を作れません。遺言時に意思能力がなければ、その遺言は無効になります。
家族信託は不動産の管理に強い
家族信託は、財産の管理権限を家族に移しておく契約です。本人の判断能力が落ちた後も、受託者となった家族が不動産を売却したり賃貸したりできます。
自宅を売って施設費用にあてたい、というニーズには適した仕組みです。ただし設計に専門的な知識が必要で、初期費用も相応にかかります。
任意後見は後見人を自分で選べる
任意後見は、判断能力があるうちに将来の後見人を決めておく契約です。家庭裁判所が選ぶのではなく、信頼できる人を自分で指定できます。
判断能力が低下した時点で、家庭裁判所に任意後見監督人の選任を申し立てて効力が生じます。法定後見と違い、誰が支援するかを自分で決められる点が特徴です。
大阪市内の50代女性/母が軽度の認知症、診断書で意思能力を確認し3ヶ月で相続登記まで完了
【ご相談内容】
お父様が亡くなり、大阪市内のご自宅と預貯金約2,500万円を相続することになりました。相続人はお母様(80代・軽度の認知症と診断)とご相談者を含む子2人。銀行の窓口で「成年後見人を立ててください」と言われたものの、月々の報酬が続くと聞いて迷われ、ご相談に来られました。
【対応結果】
まずかかりつけ医に家庭裁判所の書式で診断書を作成していただいたところ、日常的な判断は可能との内容でした。お母様との面談では、お父様が亡くなったこと、自宅と預金があること、ご自身が自宅を相続することの意味をご理解いただけていることを確認。面談の内容を記録に残したうえで、財産目録と分割案を平易な言葉で説明する資料を作成し、協議を成立させました。後見の申立てをせずに相続登記と預金の解約まで完了し、ご相談から3ヶ月で全ての手続きが終わっています。
軽い認知症と相続に関するよくある質問
ご相談の際によくいただく質問をまとめました。
Q1. 認知症と診断されていますが、まだ会話はできます。協議に参加できますか?
参加できる可能性があります。判断の基準は診断名ではなく、協議の内容を理解して意思を示せるかどうかです。まず家庭裁判所の書式で診断書を取得し、現状を確認してください。
Q2. 銀行に成年後見人を立てるよう言われました。立てるしかないのでしょうか?
必要とは限りません。意思能力が認められれば協議に参加できますし、遺言書があれば協議自体が不要です。法定相続分どおりに登記する方法もあります。まず選択肢を整理してください。
Q3. 遺産分割が終わったら成年後見をやめられますか?
現行の制度では、原則として本人が亡くなるまで続きます。2026年6月に成立した改正民法で終了できる仕組みが設けられましたが、施行は2028年ごろの見込みです。
Q4. 私が母の後見人になれば費用はかかりませんか?
親族が後見人になれば報酬を受け取らない選択もできます。ただし候補者を挙げても家庭裁判所が専門職を選ぶことがあります。また相続人同士の利益相反があれば特別代理人が必要です。
Q5. 認知症の母を除いて協議書を作ってもよいですか?
できません。相続人を欠いた協議は無効です。家族が代わりに署名する行為は私文書偽造にあたるおそれがあります。適切な手順で進めてください。
Q6. 父が軽い認知症ですが、今から遺言書を作れますか?
作れる場合があります。遺言には遺言能力が必要で、作成時に意思能力があることが条件です。公証人が関与する公正証書遺言のほうが、後日の争いを避けやすくなります。
Q7. 成年後見の申立てから選任までどのくらいかかりますか?
2〜4ヶ月程度が目安です。家庭裁判所による本人との面接や親族への意向照会があるため、急いでも短縮は難しくなります。相続税の期限がある場合は早めに動いてください。
Q8. 相続税の申告期限に間に合いそうにありません。
後見人の選任を待たずに、法定相続分で計算した申告を期限内に行います。「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えれば、分割成立後に配偶者の税額軽減などを適用して更正の請求ができます。
まとめ|まず診断書で現状を確かめる
この記事のポイントをまとめます。
- 軽い認知症でも、協議の内容を理解できる意思能力があれば遺産分割に参加できる
- 判断の基準は診断名ではなく、家庭裁判所の書式による診断書と日常の様子から総合的に判断する
- 意思能力がない人が参加した協議は民法3条の2により無効になる
- 成年後見は3類型あり、軽度なら補助や保佐にあたることが多い
- 専門職が後見人になると月2万〜6万円の報酬が本人の死亡まで続く
- 遺言書があれば協議が不要になり、後見を使わずに手続きを進められる
- 2026年6月成立の改正民法で終身制は見直されるが、施行は2028年ごろの見込み
認知症の相続人がいる相続で、最初にすべきなのは診断書の取得です。後見が必要かどうかは、そこからでなければ判断できません。銀行の窓口で言われたとおりに申立てを進めて、後から負担の重さに気づくのは避けたいところです。
司法書士法人やなぎ総合法務事務所では、診断書をもとにした方針の整理から、成年後見の申立書類の作成、遺産分割協議書の作成、相続登記までお引き受けしています。生前対策としての公正証書遺言や家族信託のご相談にも対応しています。初回のご相談は無料です。ご家族の状況をお聞かせください。
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著者情報
代表 柳本 良太

- <所属>
- 司法書士法人 やなぎ総合法務事務所 代表社員
- 行政書士法人 やなぎKAJIグループ 代表社員
- やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役
- 桜ことのは日本語学院 代表理事
- LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師
- <資格>
- 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
- 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
- 2009年 司法書士試験合格
- 2010年 行政書士試験合格














