今回は司法書士法人やなぎ総合法務事務所でご依頼いただいた相続についてお話しさせていただきます。
「亡くなった方の前妻との間に子がいることが判明した」という事例です。
知らない相続人がいる場合の相続手続きについて知りたい方は本ブログを見て参考にしていただけると幸いです。

 

目次

 

インタビュー概要

●体験者 :Yさん(大阪市/50代/男性)

●亡くなった方:父親

●相続人
Xさん(大阪市/50代/女性)
Yさん(大阪市/50代/男性)
Zさん(神戸市/60代/男性)

●主な遺産:不動産 預貯金 株式

●相談の内容
・相続手続きが初めてのため何もわからない。
・忙しく、相続財産が多いため専門家にまかせたい。
・知らない相続人がいる(後日判明)

経緯

面談時の簡単な内容は以下の通りです。

やなぎ総合法務事務所
「本日はどの様なご相談でしょうか?」

相談者
「父が亡くなったのですが、不動産や預貯金、株まであり、自分たちだけではどこからどの様に手をつけたら良いのか分からず、専門家の方にご相談したいと思って面談をお願いしました。」

やなぎ総合法務事務所
「承知しました。ご相続人の方のご関係をお聞きしてもよろしいでしょうか?」

相談者
「亡くなったのは父で、母は既に亡くなっています。子どもは僕と姉の2人です。」

やなぎ総合法務事務所
「では、相続人はお子さんのお二人ですね。弊所に委任いただきました後の流れとしましては、窓口となる代表相続人の方を決めていただき、必要な戸籍の収集や、財産調査

を行った後、お子さんお二人で遺産分割協議をしていただきます。その後、不動産の名義変更や預貯金などを分配するという流れとなります。」

相談者
「わかりました。姉と相談してお願いするかどうか検討したいと思います。ありがとうございます。」

 

解決のご提案

以下ではYさんの事例をどのように解決したかについて説明していきます。

解決のご提案

 

戸籍の収集

必要な戸籍は個々の事案によって異なります。事案に応じて適切な戸籍を収集しなければ、「相続人が誰かを確定できない」「名義変更の申請が通らない」といったことになります。
今回の事例の場合においての必要な戸籍としては、以下のものとなります。

〇被相続人(亡くなった方)の父親
・出生時から死亡時までの全ての戸籍(除籍、改正原戸籍)謄本
・住民票除票又は戸籍附票

〇相続人 X・Y
・戸籍
・住民票又は戸籍附票

しかし、戸籍を収集していく段階で、父親の前妻の子どもであるZさんがいることが判明しました。このため、Zさんも相続人であるため、Zさんの戸籍、住民票又は戸籍附票も必要になります。

財産調査

Yさんの事例ではYさんが亡くなった方の不動産の権利証・通帳・証券会社からのハガキ等を保管していたため、これらの情報を基に財産の調査を行いました。

 

預貯金の調査

亡くなった方の通帳をみて銀行に死亡報告をしました。その後、残高証明書の取得のため予約をしました。なぜなら死亡報告は店頭でもできますが、店頭ですると時間がかかり、予約をしない場合は長時間待たなければならない場合があるからです。残高証明書は亡くなった方の死亡日のものを取得しました。

 

株式の調査

Yさんの場合、証券会社のハガキは複数あったことから証券保管振替機構に照会手続きをすることにしました。必要書類を郵送することで下記の図のような書類が郵送されてきます。

 

上記のような資料を手掛かりに各証券会社等に残高証明書を請求しました。株式の相続手続きについて詳しくはブログ(https://yanagi-law.jp/blog/8485)をご覧ください。

不動産の調査

Yさんの場合は権利証があったため、権利証の情報を基に登記簿謄本と名寄帳の請求をしました。
名寄帳とは、市区町村が作成している固定資産税課税台帳を所有者ごとにまとめたものです。
例えば、Aさんの名寄帳をX市に請求した場合AさんがX市に持っている不動産がすべて記載されます。見本は以下の通りです(大阪市の場合)。

 

相続人への手紙

戸籍を集めたところ、Xさん、Yさんには、母親が違うZさんという兄がいることがわかりました。

相続手続きのための遺産分割協議には、Aさんの相続人全員の参加が必要となりますので、Zさんにも参加してもらわなければなりません。

しかし、いきなり遺産分割協議書を送った場合、AさんとZさんがどのような親子関係だったのか、そもそもAさんが亡くなったことを知っているのかなど不明なことが多い状況で、Zさんの気持ちを考えずに行動すると、紛争に発展する可能性があります。

Yさんの事例ではZさんに手紙を送ることにしました。
手紙には、Aさんが亡くなったこと、他の相続人のことを書き、財産の分け方についてZさんの考えを書いてもらう回答書をつけました。
今回は手紙をみたZさんから事務所に連絡があり遺産分割協議書を作成することになりました

以下に、差出人が司法書士事務所のお手紙のサンプルを載せておきます。

 

 

被相続人A様 相続人様 各位

 

御 連 絡

 

令和5年12月1日

 

冠省 突然のお便り,誠に失礼いたします。

貴殿の父上様であるA様は,令和5年7月14日にご逝去されました。

ここに,A様のご逝去を悼み,謹んでお悔やみ申しあげます。

 

さて,弊所 司法書士法人やなぎ総合法務事務所は,亡A様の子供にあたるY氏から依頼を受け,亡A様の相続手続きの任にあたる運びとなりました。

弊所の調査によるところ,Y氏に加え,妹にあたるX様が,亡A様の法定相続人にあたり,相続権をお持ちであると判断をしております。

 

(中略)

 

つきましては,本件相続の遺産分割方法について,貴殿のご意見・ご希望をお伺いしたく存じますため,お手数をおかけし誠に恐縮ではございますが,同封の「回答書」にご記入頂き,同封の返信用封筒にて,令和5年12月末日までにご返送下さいますようお願い申し上げます。

各相続人様のご意見が集まり次第,遺産分割協議書や送金先口座指定書等の書類をお送りさせて頂きたく存じますので,何卒よろしくお願い致します。

万が一,全ての相続人様にて遺産分割協議が整わない場合につきましては,調停・裁判等法的手続きによらざるを得ないことになる旨,念のため申し添えさせて頂きます。

ご不明な点等につきましては,弊所までご連絡下さいますようお願い申し上げます。

(以下略)

 

 

遺産分割協議書の作成

①亡くなった人の情報を記載する

まずは亡くなった人の情報を記載します。
具体的な例は以下のとおりです。

 

被相続人 A(令和5年7月14日死亡)

最後の本籍 大阪市阿倍野区・・・・・

最後の住所 大阪市阿倍野区・・・・・

登記簿上の住所 大阪市阿倍野区・・・

 

被相続人とは亡くなった方のことです。登記簿上の住所は亡くなった方が不動産を所有している場合のみ記載します。

 

②不動産がある場合の遺産分割協議書の書き方

相続財産に不動産がある場合の具体例は以下のとおりです。

 

被相続人の次の不動産は,相続人 Yが取得する。

 

不動産番号

所   在 大阪市・・・・

地   番 1番1

地   目 宅地

地   積 85.64㎡

 

不動産番号

所   在 大阪市・・・・

家屋番号  1番1

種   類 居宅

構   造 軽量鉄骨造スレート葺2階建

床 面 積 1階 51.46㎡

2階 51.32㎡

 

不動産がある場合の遺産分割協議書の書き方のポイントは不動産の登記簿情報を記載してどの不動産かをしっかり特定することです。

つまり、不動産登記簿を取得する必要があります。不動産登記簿の取得方法についてはブログ(https://yanagi-law.net/blog/8839)を参考にしていただければ幸いです。

 

③預貯金がある場合の遺産分割協議書の書き方

相続財産に預貯金がある場合の具体例は以下のとおりです(以下の具体例はあくまで預貯金のみがある場合の例であり、それ以外のものについては含めていません)。

 

次の預貯金は,相続人X,相続人Y,相続人Zが各3分の1ずつ取得する。なお,振込手数料は各相続人の負担とする。

 

【預貯金(預金債権)の表示】

(1)ゆうちょ銀行  通常貯金   記号番号 12345-67891011

(2)○○銀行 △△支店 普通預金 口座番号 1234567

(3)その他,被相続人名義の一切の預貯金(預金債権)及びこれに付帯する利息金

 

預貯金がある場合の遺産分割協議書の書き方のポイントは預貯金の口座を特定することです。

ゆうちょ銀行の場合は貯金の種別と記号番号、その他の金融機関の場合は銀行名・支店名・預金の種別・口座番号で特定します。

 

④相続人の住所・署名・押印

遺産分割協議書の最後に相続人の住所を記載して署名・押印をします。以下は具体例です。

 

      (A 相続人 X 様)

 

(住  所) 大阪市・・・・

 

 

(氏  名)        【署名】

 

 

(A 相続人 Y 様)

 

(住  所) 大阪市・・・・・・・・・

 

(氏  名)       【署名】

 

 

(A 相続人 Z 様)

 

(住  所) 神戸市・・・・・・・・・

 

(氏  名)       【署名】

 

 

⑤まとめ

上記をまとめて記載すると以下のようになります。

遺産分割協議書

被相続人 A(令和5年7月14日死亡)

最後の本籍 大阪市阿倍野区・・・・・

最後の住所 大阪市阿倍野区・・・・・

登記簿上の住所 大阪市阿倍野区・・・

 

上記被相続人の遺産について,共同相続人間において遺産の分割について協議をした結果,次のとおり決定した。

 

第1条 被相続人の次の不動産は,相続人 Yが取得する。

 

不動産番号

所   在 大阪市・・・・

地   番 1番1

地   目 宅地

地   積 85.64㎡

 

不動産番号

所   在 大阪市・・・・

家屋番号  1番1

種   類 居宅

構   造 軽量鉄骨造スレート葺2階建

床 面 積 1階 51.46㎡

2階 51.32㎡

 

第2条 次の預貯金(預金債権)・出資金並びにこれに付帯する利息金・配当金は,相続人X,相続人Y,相続人Zが各3分の1ずつ取得する。なお,振込手数料は各相続人の負担とする。

 

【預貯金(預金債権)の表示】

(1)ゆうちょ銀行  通常貯金   記号番号 12345-67891011

(2)○○銀行 △△支店 普通預金 口座番号 1234567

(3)その他,被相続人名義の一切の預貯金(預金債権)及びこれに付帯する利息金

 

第3条  次の株式,投資信託,預け金,貴金属積立その他の預託財産のすべて及びこれに関する未収配当金その他一切の権利は,相続人Yが取得する。

 

(1)法務証券株式会社(支店名:法務支店,口座番号:123-456789)において保有する被相続人名義の以下の株式,投資信託,預け金その他の預託財産を含むすべての株式,投資信託,預け金その他の預託財産及びこれに関する未受領配当金,配当期待権その他一切の権利

・種類:株式等 銘柄:法務株式会社

数量:200株

 

2 前項の株式,投資信託,預け金,寄託物その他の預託財産のすべて及びこれに関する未受領配当金,配当期待権その他一切の権利の相続手続き・名義変更・解約・払戻し並びに換価等の一切の手続は,相続人Yが代表してこれを行う。

 

第4条 本遺産分割協議書に記載のない遺産並びに後日判明した遺産について,相続人全員は,別途協議の上,定めるものとする。

 

以上のとおり,相続人全員による遺産分割協議が成立したので,これを証するため本書を作成し,署名捺印する。

 

令和  年  月  日

 

(A 相続人 X 様)

 

(住  所) 大阪市・・・・・・・・・・

 

 

(氏  名)        【署名】

 

 

(A 相続人 Y 様)

 

(住  所) 大阪市・・・・・・・・・

 

(氏  名)       【署名】

 

(A 相続人 Z 様)

 

(住  所) 神戸市・・・・・・・・・

 

(氏  名)       【署名】

 

 

相続財産の換価・分配

銀行の預金は、相続手続き依頼書等を提出して口座を解約してお金を受け取ります。

株式は、証券会社に相続手続き依頼書等を提出し、必要に応じて売却専用口座を作成して、お金にして受け取ります。換価せず、株式のまま引き継ぐことも選択可能です。Yさんの場合は不動産・株式をYさんが引き継ぐことになりました。やなぎ事務所では亡くなった方の財産の預り金口座を作成し、その口座に解約金等すべてを集めて、その後各相続人へ遺産分割協議に基づいて送金させていただいております。

相続財産の換価の手続きには、相続手続き依頼書、遺産分割協議書、印鑑証明書、戸籍等が必要となります。

相続手続き依頼書は、銀行、証券会社により異なりますので、各手続き銀行等から取り寄せが必要です。

遺産分割協議書は、署名押印済みの、相続人全員分が必要です。

印鑑証明書は、相続人全員分が必要で、書類提出日から3か月又は6か月以内に発行されたものを要求されることが多いので、発行から3か月以内のものをXさん・Yさん・Zさんに用意をお願いしました。

戸籍等は、被相続人の出生から死亡までのすべての戸籍、附票又は除票等の死亡時住所のわかるもの、相続人の現在の戸籍、附票又は住民票の現在住所がわかるものが必要となります。今回は相続手続きをする銀行等が多いため、法務局で法定相続情報を作成しました。

 

体験者の感想

 

以下は事件が完了したときのYさんと事務所の担当者との会話です。

やなぎ総合法務事務所
「お預かりしていた書類と取得させていただいた公文書を返却させていただきます。問題がなければ受領書にサインをお願いします。」

Yさん
「ありがとうございます。父の財産が多くて困っていた上に知らない兄まで判明してどうなるかと思いましたが、無事手続きが終了してほっとしています。」

やなぎ総合法務事務所
「今回の場合、遺産分割協議がまとまらない場合は裁判手続きになるところでしたので私どもも無事に終了して安心しております。」

Yさん
「僕はやはりいきなり自分の知らない兄弟や財産があるととても不安になったので自分の子供に自分の死んだ後のことについて話をした方がいいと改めて感じました。」

やなぎ総合法務事務所
「そうですね。ご家族と老後・死後のことをお話しされるのはとても大切なことだと思います。必要に応じて遺言や家族信託等の制度を是非ご活用ください。」

Yさん
「はい、家族と改めて話し合いたいと思います。本当にありがとうございました」

まとめ

以上が知らない相続人がいる場合の相続手続きについてのお話でした。ここまでのお話をまとめたものが以下の表です。

事件の概要

●体験者 :Yさん(大阪市/50代/男性)

●亡くなった方 :父親

●相続人
・Xさん(大阪市/50代/女性)
・Yさん(大阪市/50代/男性)
・Zさん(神戸市/60代/男性)

●主な遺産 :不動産、預貯金、株式

●相談の内容:
・相続手続きが初めてのため何もわからない。
・忙しく、相続財産が多いため専門家にまかせたい。
・知らない相続人がいる(後日判明)


やなぎ事務所が行ったこと

・戸籍の収集、相続人の確定
・残高証明書の取得
・証券保管振替機構への照会
・名寄帳の取得
・解約手続き
・各相続人への送金


体験者の感想

自分の知らない兄弟や財産があるととても不安になったので自分の子供に自分の死んだ後のことについて話をした方がいいと改めて感じました。

 

著者情報

代表 柳本 良太

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    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所