認知症でも遺言書は作れる?有効性の判断基準

認知症と診断されても、遺言能力があれば有効な遺言書を作成できます。ただし、症状が進行すると無効リスクが高まるため、早期の対応が重要です。

◆ この記事でわかること

  1. 認知症の方が遺言書を作成できる条件と「遺言能力」の判断基準
  2. 認知症の進行度別に有効性がどう変わるか・公正証書遺言が推奨される理由
  3. 認知症の親に遺言書を作ってもらう際の4つの具体的なポイントと司法書士への相談メリット

※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年5月

目次

認知症と診断されたら遺言書は作れないのですか?

結論として、認知症と診断されても「遺言能力」が認められれば、有効な遺言書を作成できます。民法963条では「遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない」と定められており、認知症かどうかではなく、遺言書を作成した時点で意思能力(自分の行為の結果を理解する力)があったかどうかが判断基準となります。

つまり、認知症と診断されただけで遺言書が無効になるわけではありません。たとえば、初期の認知症で日常会話に支障がない方であれば、有効な遺言書を残せるケースは数多くあります。ただし、認知症は進行性の疾患です。今日できることが3ヶ月後にはできなくなる可能性があるため、遺言書を作りたい意思があるなら、できるだけ早く動き出すことをおすすめします。

認知症の診断と「遺言能力」は別の概念

遺言能力の判断基準

「認知症の診断=遺言できない」と誤解されがちですが、これは正確ではありません。認知症は医学的な診断名であり、遺言能力は法律上の概念です。たとえばインフルエンザと診断されても契約ができなくなるわけではないのと同じで、診断名だけで遺言能力が一律に否定されることはありません。実際の裁判でも、遺言能力の有無は「遺言内容の難易」「医療記録」「作成時の言動」など多角的な事情を総合して判断されています。

遺言が有効になる「遺言能力」とは何ですか?

遺言能力とは、遺言の内容を理解し、その結果を判断できる意思能力のことです。民法では大きく以下の4要素で構成されます。

遺言能力を構成する4つの要素は次のとおりです。

要素内容判断のポイント
①年齢要件15歳以上であること(民法961条)15歳未満は法定代理人の同意があっても作成不可
②意思能力自分の財産を認識し、誰に相続させたいかを決める力認知機能テストの結果や日常会話の様子で判断
③内容理解力遺言書の記載が財産にどう影響するかを理解できる力遺言内容の複雑さによって要求水準が変わる
④判断力遺言内容が社会通念上、合理的・妥当かを判断できる力極端に不自然な内容の場合、作成経緯や本人の理解力が争われることがある

これらの要件を満たさない状態で作成された遺言書は、たとえ本人が記名押印していても無効と判断される可能性があります。

遺言能力は「遺言書作成時点」で判断される

重要なポイントは、遺言能力の有無は「遺言書を作成したそのとき」を基準に判断される点です。たとえば、遺言書を作成した翌月に認知症が進行し意思疎通が困難になっても、作成時点で遺言能力があれば遺言書は有効です。逆に、認知症と診断される前に作成された遺言書であっても、作成時点で症状が進行していた疑いがあれば無効とされることがあります。だからこそ、後で「あのときは確かに意思があった」と証明できる客観的な証拠を残しておくことが極めて重要なのです。

遺言能力の判断材料となるもの

裁判で遺言能力が争われたとき、以下のような資料が判断材料となります。

  • 長谷川式認知症スケールの点数(認知機能の客観的指標)
  • 医療記録・診療録・介護記録
  • 遺言書作成前後の言動を記した日記やメモ
  • 家族・知人・施設職員の証言
  • 遺言内容の複雑さ(内容が単純なほど能力ありと判断されやすい)

認知症の進行度によって遺言書の有効性はどう変わりますか?

認知症の進行度と遺言書の有効性

結論として、認知症が軽度であれば有効、中等度では条件付き、重度ではほぼ無効と判断される傾向にあります。認知症は「軽度・中等度・重度」と段階的に進行し、進行度に応じて遺言能力の認められやすさが大きく変わります。具体的な目安は次の比較表のとおりです。

進行度症状の目安遺言書の有効性
軽度日常会話・買い物などは可能。新しいことを覚えにくい有効と判断されやすい。早期作成を強く推奨
中等度日付・場所が分からないことがある。簡単な計算や手続きが困難内容が単純なら有効。診断書・証拠の確保が必須
重度家族の顔も分からなくなる。意思疎通が困難ほぼ無効と判断される。代替策の検討を

ただし、表はあくまで一般的な傾向です。実際の判断は、遺言書の内容の複雑さ・本人の日常的な言動・医師の診断などを総合的に考慮して下されます。中等度でも、作成時の状態や遺言内容が単純であること、医療記録などの証拠が整っていることにより、有効性が認められる余地があります。

【注意】

「まだら認知症」と呼ばれる、症状に波がある状態の方の場合、症状が出ていないタイミングを医師立会いのもとで見計らえば、有効な遺言書を作成できることもあります。一方で、後の裁判で有効性を争われやすい点には注意が必要です。

認知症の親に遺言書を作ってもらう4つのポイントは?

認知症の親に遺言書を作ってもらう際のポイント

認知症の親に遺言書を作成してもらう際は、以下の4つのポイントを押さえれば、無効リスクを大きく下げられます。特に重要なのは、後で遺言の有効性が争われたときに「作成時に遺言能力があった」と客観的に証明できる準備を整えておくことです。

STEP 1医師に「遺言能力の有無」を診断してもらう

遺言書作成にあたって、まず医師の診察を受け、遺言能力に関する診断書を作成してもらいましょう。医師が判断できるのは主に医学的な認知機能・意思疎通能力で、「遺言能力の有無」は最終的には法律判断・裁判判断です。特に長谷川式認知症スケール(HDS-R)やMMSEといった認知機能検査の結果を残しておくと、後日「作成時点で遺言能力があった」ことを示す強力な客観的証拠になります。費用目安は1万〜3万円程度(医療機関により異なる)です。

STEP 2状況証拠を多角的に残しておく

診断書だけでなく、遺言書作成時の状況を裏付ける証拠を複数残しておくことが大切です。具体的には、作成当日の様子をビデオ撮影する・家族や知人に立会人になってもらう・本人が遺言内容を自分の言葉で説明する様子を録画する、などの方法があります。証拠は「点」ではなく「線」で残すと信頼性が高まります。

STEP 3公正証書遺言を選択する

遺言書には3種類ありますが、認知症の方には公正証書遺言が最も安全です。公証人が本人と直接面談して意思を確認し、形式的な不備や偽造のリスクがほぼゼロになるためです。さらに、公証役場で原本が保管されるため紛失・改ざんの心配もありません。公証人手数料は財産額・受遺者数・枚数・出張の有無により異なりますが目安は3万円〜7万円、別途、専門家報酬10万円前後はかかります。

STEP 4相続トラブル防止のために家族で事前に話し合う

遺言書の内容によっては、相続人の間で対立が生じることがあります。特に「特定の相続人に多く相続させる」「特定の相続人に何も渡さない」といった内容は争いの火種になりがちです。可能であれば、本人の意思を尊重しながら、相続人全員に遺言の趣旨を事前に説明しておくとよいでしょう。遺留分(法定相続人に保障された最低限の相続分)にも配慮した内容にすることでトラブルを未然に防げます。

公正証書遺言と自筆証書遺言、認知症の方にはどちらが安全ですか?

結論として、認知症の方には公正証書遺言を強くおすすめします。後日の有効性争いや形式不備のリスクが大幅に減るためです。

項目公正証書遺言自筆証書遺言秘密証書遺言
作成者公証人が作成本人が全文自書本人が作成し封印
証人2名必要不要2名必要
費用目安10万円〜0円(法務局保管は3,900円)1万1,000円
無効リスク極めて低い形式不備で無効も多い中程度
認知症の方への推奨度

自筆証書遺言は手軽ですが、認知症の方が作成した場合は字の乱れや内容の矛盾から有効性を争われやすく、おすすめできません。秘密証書遺言は内容を秘密にできるものの、公証人が中身を確認しないため認知症の有無を直接担保することができない点に注意が必要です。

公正証書遺言を作成するときの流れ

公正証書遺言は、以下のステップで作成します。所要期間は2週間〜1ヶ月程度です。

STEP 1司法書士など専門家に相談し、遺言内容の素案を作る
STEP 2必要書類(印鑑証明書・戸籍謄本・固定資産評価証明書など)を準備する
STEP 3公証人と打ち合わせし、遺言書の文案を確定する
STEP 4証人2名と本人で公証役場に行き、公証人の前で遺言内容を確認する
STEP 5本人・証人・公証人が署名押印して完成・原本は公証役場で保管

認知症で公証役場まで出向くのが困難な場合は、公証人に自宅・病院・施設へ出張してもらうことも可能です(出張費用が加算されます)。

成年後見制度を利用中でも遺言書は作れますか?

結論として、成年被後見人でも条件を満たせば遺言書を作成できます。ただし、通常より厳しい要件をクリアする必要があります。民法973条では、成年被後見人が遺言をする場合、本人の意思能力が一時的に回復していることを2名以上の医師が立ち会って確認する必要があると定めています。

成年被後見人が遺言書を作成する3要件

  • 事理弁識能力(物事を理解し判断する能力)が一時的に回復していること
  • 医師2名以上の立会いがあること
  • 立会医師が遺言書に「遺言時に心神喪失の状況でなかった」旨を付記して署名押印すること

これらの要件を満たさない遺言書は無効となります。手続きのハードルが高いため、成年後見人を選任する前に遺言書を作成しておくのが理想です。

【注意】

成年後見制度の利用を検討している段階で、まだ遺言書を作成していない場合は、後見開始の申立て前に遺言書を作成することを強くおすすめします。後見開始後の遺言書作成は手続きが煩雑になり、有効性が争われやすくなります。

認知症の方の遺言書が無効と判断された場合はどうなりますか?

遺言書が無効と判断された場合は、相続人全員による遺産分割協議で財産の分け方を決めます。ただし、不公平を感じる相続人には次の救済策があります。

①遺留分侵害額請求

遺留分とは、法定相続人(兄弟姉妹を除く)に最低限保障されている相続分のことです。たとえ「全財産を長男に相続させる」という遺言があっても、他の相続人は遺留分にあたる金額を金銭で請求できます。請求期限は相続開始と遺留分侵害を知ってから1年以内です。

②特別受益の持ち戻し

生前に特定の相続人だけが多額の贈与(住宅資金の援助・事業資金など)を受けていた場合、その贈与額を相続財産に加算して計算し直す制度です。特別受益が認められれば、結果として相続できる財産が増える可能性があります。

③寄与分の主張

被相続人(亡くなった方)の介護や事業に貢献した相続人がいる場合、その貢献度に応じて相続分を上乗せできる制度です。特に長期間にわたって介護を担っていた相続人は、寄与分を主張することで公平な分配を実現しやすくなります。

④遺言無効確認訴訟

そもそも遺言書自体の有効性を争いたい場合は、まず家庭裁判所の調停で話し合いを試みることもありますが、最終的には地方裁判所で遺言無効確認訴訟を提起することになります。ただし、裁判は長期化(平均1〜3年)し費用負担も大きいため、まずは弁護士や司法書士に相談して見通しを立てることが大切です。

認知症の遺言書作成を司法書士に相談するメリットは?

司法書士は、遺言書作成から相続登記・成年後見・家族信託までワンストップで対応できる相続の専門家です。特に認知症の方の遺言書作成では、以下のような対応が司法書士の強みです。

  • 公正証書遺言の文案作成から公証人との調整までトータルサポート
  • 遺言能力を補強するための医師連携・証拠保全のアドバイス
  • 家族信託・任意後見契約との併用提案(遺言だけでは対応できない財産管理に対応)
  • 相続発生後の不動産登記・預貯金解約までを継続フォロー

弁護士は紛争解決が中心のため、争いがない段階での予防的な遺言書作成は司法書士の方が費用も時間も抑えられるケースが多くあります。初回相談は無料で承っており、最短2週間〜1ヶ月で公正証書遺言の作成が可能です。

ご相談事例

当事務所で対応した事例を、個人が特定できない形で匿名化してご紹介します。

事例A|軽度認知症の母親が公正証書遺言を作成できたケース

【ご相談内容】

70代のAさん(長女)から「母(80代)が軽度認知症と診断された。父は数年前に他界しており、自宅と預金を兄妹2人でどう分けるか心配」とご相談いただきました。母親はまだ日常会話に支障がなく、長谷川式認知症スケールで25点(30点満点)。

【対応結果】

当事務所で医師の診断書を取得した上で、公正証書遺言の文案を作成し、公証人と日程調整を実施。遺言内容は「自宅は同居している長女に、預金は長男と長女で2分の1ずつ」とシンプルにまとめました。ご相談から約1ヶ月半でスムーズに公正証書遺言の作成が完了し、ご家族に安心していただけました。

事例B|中等度認知症の父親の遺言書が無効と判断されかけたケース

【ご相談内容】

60代のBさん(次男)から「亡くなった父の遺言書が出てきたが、作成時すでに中等度の認知症だった。兄が全財産を相続する内容で納得できない」とのご相談。

【対応結果】

当事務所で父親の医療記録・介護記録を取り寄せ、長谷川式の点数推移を整理。遺言能力が認められない可能性が高いと判断し、提携弁護士と連携して遺留分侵害額請求を実施。最終的に法定相続分の半分にあたる金額をBさんが受け取る形で和解が成立しました。ご相談から解決まで約8ヶ月でした。

専門家としての見解

【ご相談内容】

司法書士として、認知症の方の遺言書作成で最もお伝えしたいのは「諦めるのが早すぎる」という現実です。ご相談に来られる方の多くは「認知症と診断されたから、もう遺言書は無理ですよね」とおっしゃいます。しかし実際には、軽度〜中等度の段階であれば適切な手順を踏むことで有効な遺言書を作成できるケースが大半です。15,000件以上の相続案件を扱ってきた経験から申し上げると、最大の障壁は症状そのものではなく「動き出すタイミングの遅れ」です。
また、診断書1枚あれば安心と考えるのも実務上は危険です。長谷川式認知症スケールの点数推移・医療記録・作成当日の録画・第三者の立会いなど、複数の証拠を重ねて初めて、後の争いに耐えられる遺言書となります。
さらに、遺言書だけでは認知症進行後の財産管理(預金口座の凍結・不動産の修繕や売却など)には対応できません。当事務所では、必要に応じて家族信託や任意後見契約との組み合わせをご提案し、提携税理士とも連携して相続税対策まで含めたトータルプランをご提示しています。「遺言だけ」ではなく「相続全体」を見据えた早期相談が、ご家族の安心につながります。

認知症と遺言書に関するよくある質問

Q1. 認知症の診断を受けた直後でも遺言書は作れますか?

はい、診断直後でも遺言能力があれば作成可能です。軽度の認知症であれば、有効な遺言書を作成できるケースが多くあります。診断後、できるだけ早い段階で医師の意見書を取得し、公正証書遺言を作成することをおすすめします。

Q2. 長谷川式認知症スケールは何点以上なら遺言書を作れますか?

法律上の明確な基準はありませんが、目安として21点以上(軽度認知障害レベル)であれば、遺言能力が認められやすい傾向にあります。20点以下は中等度以上の認知症が疑われ、遺言内容の複雑さによっては無効と判断されることがあります。

Q3. 認知症の親が書いた自筆証書遺言は有効になりますか?

作成時に遺言能力があれば有効ですが、自筆証書遺言は後で争われやすく、おすすめできません。字の乱れや内容の矛盾を理由に無効を主張されるケースが多いため、必ず公正証書遺言で作成することを推奨します。

Q4. 成年後見人を選任した後に遺言書を作ることはできますか?

可能ですが、医師2名以上の立会いが必要で手続きが煩雑になります。民法973条により、成年被後見人の遺言には特別な要件が課されているためです。後見開始前に遺言書を作成しておくのが理想的です。

Q5. 認知症の親の遺言書を無効にできますか?

作成時に遺言能力がなかったと証明できれば、家庭裁判所での調停・訴訟を通じて無効化できます。医療記録・介護記録・長谷川式の点数推移・当時の言動などを総合的に立証する必要があります。

Q6. 公正証書遺言の費用はいくらかかりますか?

財産額により異なりますが、公証人手数料の目安は以下のとおりです(2024年時点)。別途、出張費用・専門家報酬がかかる場合があります。

  • 500万円超〜1,000万円以下:17,000円
  • 1,000万円超〜3,000万円以下:23,000円
  • 3,000万円超〜5,000万円以下:29,000円
  • 5,000万円超〜1億円以下:43,000円

Q7. 遺言書の作成を司法書士に依頼すると費用はいくらですか?

司法書士報酬の相場は10万円〜程度です(別途、公証人手数料・実費)。やなぎ総合法務事務所では初回相談は無料で承っております。費用の内訳もご相談時に明確にお伝えしますので、安心してご相談ください。

まとめ|認知症と遺言書作成は「早期判断」がすべて

この記事のポイントをまとめます。

  • 認知症と診断されても、遺言能力があれば有効な遺言書を作成できる
  • 軽度認知症のうちに動き出し、医師の診断書・公正証書遺言で証拠を固めることが重要
  • 成年後見開始後は手続きが煩雑になるため、後見申立て前の作成が理想
  • 無効が疑われる遺言書には、遺留分侵害額請求や遺言無効確認訴訟など複数の救済策がある
  • 司法書士に相談すれば、遺言書作成から相続発生後の手続きまでワンストップで対応可能

認知症は時間との戦いです。「まだ大丈夫」と思っているうちが、最も大切な準備のタイミングです。

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著者情報

代表 柳本 良太

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    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所