相続放棄と限定承認の違いは?選び方と手続きの流れを解説

相続放棄はプラスの財産も借金もすべて引き継がない手続き、限定承認はプラスの財産の範囲内でだけ借金を引き継ぐ手続きです。どちらも家庭裁判所への申述が必要で、期限は相続開始を知った日から3ヶ月以内。使い分けの基準は「借金の総額がわかっているかどうか」です。
◆ この記事でわかること
- 相続放棄・限定承認・単純承認の違いと、それぞれを選ぶべきケース
- 限定承認が年間700件前後しか使われていない3つの理由(みなし譲渡所得税・全員同意・手間)
- 3ヶ月の期限に間に合わないときの対処法と、手続きにかかる費用の目安
※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年7月
目次
- 相続放棄と限定承認は何が違いますか?
- 限定承認とはどんな手続きですか?
- 相続放棄と限定承認、どちらを選べばいいですか?
- 限定承認はほとんど使われていないと聞きましたが本当ですか?
- 限定承認の手続きはどのような流れで進みますか?
- 3ヶ月の期限に間に合わないときはどうすればいいですか?
- ご相談事例
- 相続放棄と限定承認の費用はいくらかかりますか?
- 相続放棄と限定承認に関するよくある質問
- まとめ|迷ったら「調査してから決める」が正解
相続放棄と限定承認は何が違いますか?
相続放棄は財産も借金もすべて引き継がない手続き、限定承認はプラスの財産で返せる範囲だけ借金を引き継ぐ手続きです。「引き継ぐ量」が違う、と考えるとわかりやすくなります。
相続人が財産をどう引き継ぐかには、3つの選択肢が用意されています。まずは全体像から整理しましょう。
| 選択肢 | 引き継ぐもの | こんな人向け |
|---|---|---|
| 単純承認 | プラスの財産も借金も、すべてそのまま引き継ぐ | 財産が借金を明らかに上回っている |
| 限定承認 | プラスの財産の範囲内でだけ借金を引き継ぐ。足りない分は返さなくてよい | 借金の総額がわからない/残したい実家がある |
| 相続放棄 | 何も引き継がない。財産も借金もゼロ | 借金が財産を明らかに上回っている |
限定承認をたとえるなら、「もらった財布の中身の範囲内で借金を払う」仕組みです。財産が1,000万円、借金が1,500万円なら、1,000万円分だけ返して残りの500万円は返さなくて済みます。逆に財産が1,500万円、借金が1,000万円だったなら、差額の500万円は手元に残る。相続で得た財産を超える借金は負わずに済むのがポイントです。
手続き面の違いを4つの観点で比較
実務でとくに差が出るのは、次の4点です。
| 比較の観点 | 相続放棄 | 限定承認 |
|---|---|---|
| 申述する人 | 相続人が1人でできる | 相続人全員で共同して行う(民法923条) |
| 必要な書類 | 申述書・戸籍謄本など(財産目録は不要) | 申述書・戸籍謄本に加えて財産目録が必要(民法924条) |
| 手続き完了までの期間 | 1〜2ヶ月程度 | 半年〜1年以上かかることも |
| 次順位の相続人への影響 | 借金が兄弟姉妹などへ移る | 移らない。申述した相続人で完結する |
相続放棄で見落とされがちなのが、いちばん下の「次順位への影響」です。子どもが全員放棄すれば、相続権は親、次に兄弟姉妹へ移ります。借金の請求が、事情を知らない親族に突然届くことに。相続放棄をするなら、次に相続人になる方への連絡までがワンセットです。
限定承認とはどんな手続きですか?
限定承認とは、相続で得たプラスの財産の限度でのみ借金を返すことを条件に、相続を承認する手続きです(民法922条)。家庭裁判所に申述して行います。
借金の総額がわからない場合の「保険」だと考えてください。あとから多額の請求が来ても、引き継いだ財産を超える分は自分の財布から払わなくて済みます。
限定承認のメリット
- 借金の総額がわからなくても、自分の財産を持ち出すリスクを避けられる
- プラスが上回れば、その差額は手元に残る
- 先買権(さきがいけん)を使えば、実家など残したい不動産を手元に確保できる可能性がある(民法932条但書)
- 次順位の相続人に借金が移らないため、親族に迷惑をかけずに済む
限定承認のデメリット
- 相続人全員の同意が必要。1人でも反対すれば選べない
- 官報公告や財産の清算など、手続きが複雑で半年以上かかることが多い
- 不動産や株式があると、みなし譲渡所得税という想定外の税負担が生じることがある
- 相続人の誰かが財産を使ってしまうと、単純承認したものとみなされ限定承認できなくなる(民法921条)
【注意】
限定承認をする前に、預貯金を解約して使う、不動産を売る、遺品を処分するといった行為をすると「単純承認したもの」とみなされます。借金もすべて背負う結果になりかねません。判断がつくまで財産には手をつけないでください。
相続放棄と限定承認、どちらを選べばいいですか?
借金が財産を上回るとわかっているなら相続放棄、どちらが多いか判断できないなら限定承認が基本の考え方です。判断の分かれ目は「調査で確定できるかどうか」にあります。
相続放棄を選ぶべきケース
- 借金や連帯保証債務が、明らかにプラスの財産を上回っている
- 財産を引き継ぐ意思がなく、相続争いから距離を置きたい
- 疎遠だった親族の相続人になり、関わりたくない
- 他の相続人が反対していて、限定承認の全員同意が得られない
限定承認を選ぶべきケース
- 被相続人が事業をしていて、あとから連帯保証の請求が来るおそれがある
- 借金がありそうだが、先祖代々の実家や自宅など手放したくない不動産がある
- 財産調査をしても、借金の総額を確定できない
- 次順位の相続人(親や兄弟姉妹)に借金を回したくない
急いで相続放棄をすると損をする場合があります。あとから財産のほうが多かったと判明しても、一度受理された相続放棄は原則として撤回できないためです。迷う段階なら、限定承認という選択肢を捨てずに検討しておくのが賢明でしょう。
限定承認はほとんど使われていないと聞きましたが本当ですか?
事実です。相続放棄が年間約28万件申し立てられているのに対し、限定承認は年間700件前後にとどまります(司法統計)。制度としては優れていても、実際に使うハードルが高いためです。
使われない理由は、大きく3つあります。
理由1:相続人全員の同意がいる
限定承認は、相続人全員が共同で申述しなければなりません(民法923条)。1人でも「単純承認したい」「関わりたくない」という人がいれば、その時点で選べなくなります。
ただし、反対する相続人が先に相続放棄をすれば、その人は最初から相続人でなかったことになります。残った相続人だけで限定承認できる、という抜け道はあります。
理由2:みなし譲渡所得税がかかる
限定承認では、不動産や株式を被相続人が時価で売ったものとみなして、譲渡所得税が課されます(所得税法59条1項1号)。これが最大の落とし穴です。
たとえば親が3,000万円で買った土地の相続時の時価が5,000万円だったとします。差額2,000万円の値上がり益に対して所得税がかかる計算に。実際に売っていないのに税金が発生するわけです。この税金は被相続人の準確定申告として、相続開始を知った日の翌日から4ヶ月以内に申告・納付します。
理由3:手続きが複雑で長期化する
申述して終わりではありません。官報に公告を出し、債権者からの申し出を2ヶ月以上待ち、財産を換価して債権者に配当する。この清算を相続人自身(または選任された相続財産清算人)が進める必要があります。半年から1年以上かかることも珍しくありません。
専門家としての見解・アドバイス
【ご相談内容】
これまで相続手続きに携わってきた経験から申し上げると、限定承認を検討されて実際に選ばれる方は、ご相談全体のごく一部です。理由はほぼ決まっていて、みなし譲渡所得税の説明をした時点で「そこまでの負担があるなら」と方針が変わるケースが目立ちます。
とくに注意していただきたいのが、実家を残したいという動機で限定承認を選ぶ場面です。先買権を使えば不動産を手元に残せますが、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額で買い取ることになり、その資金は自分で用意しなければなりません。予納金として数十万円を先に納める必要もあります。「タダで実家が残る制度」ではない点は、最初に理解しておいてください。
当事務所では、相続放棄の申述書類の作成、財産調査、限定承認後の相続登記までを司法書士が担当し、みなし譲渡所得税の試算や準確定申告が必要な場面では提携税理士と連携しています。3ヶ月の期限がある手続きです。判断材料がそろっていない段階でも、まずはご相談ください。
限定承認の手続きはどのような流れで進みますか?

財産調査から始まり、家庭裁判所への申述、官報公告、財産の換価、債権者への配当という順で進みます。申述までの期限は3ヶ月ですが、清算が終わるまでは半年以上を見ておいてください。
預貯金・不動産・株式などのプラスの財産と、借入金・連帯保証などのマイナスの財産を洗い出します。信用情報機関(CIC・JICC・全国銀行協会)に照会すれば、借入の有無を確認できます。
限定承認は全員での共同申述が条件です。反対する方がいる場合は、その方に先に相続放棄をしてもらう方法を検討します。
調査結果をもとに、財産の一覧表を作ります。申述の必須書類です(民法924条)。ここが相続放棄との大きな違いになります。
被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に、申述書・財産目録・戸籍謄本一式を提出します。収入印紙は800円。
債権者に対して「限定承認をしたので申し出てください」と官報で知らせます。申し出を受け付ける期間は2ヶ月以上。公告費用の目安は4万〜5万円程度です。
不動産などを競売にかけて現金化し、債権者へ按分して配当します。実家を残したい場合は、この段階で先買権を使います。
債権者への支払いを終えて財産が余れば、相続人が引き継ぎます。不動産が残る場合は相続登記を行います。
相続放棄はもっとシンプルです。申述書と戸籍謄本を家庭裁判所に提出し、照会書に回答すれば1〜2ヶ月で受理通知が届きます。この手数の差が、選択率の差にそのまま表れているといえるでしょう。
3ヶ月の期限に間に合わないときはどうすればいいですか?
家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てれば、期限を延ばせる場合があります(民法915条1項但書)。3ヶ月を過ぎる前に動くのが鉄則です。
この3ヶ月は熟慮期間と呼ばれ、起算点は「自己のために相続の開始があったことを知った時」。亡くなった日ではなく、相続人になったと知った日から数えます。
期限を延ばせるのはどんな場合か
財産調査が終わらない事情があれば、伸長が認められることが一般的です。認められれば、3ヶ月単位で延長されます。
- 被相続人と疎遠で、財産の全体像がつかめない
- 相続財産が多岐にわたり、調査に時間を要する
- 被相続人が事業をしていて、債務の確定に時間がかかる
注意したいのは、伸長の申立ても3ヶ月以内に行う必要がある点です。過ぎてからでは受け付けてもらえません。
すでに3ヶ月を過ぎてしまった場合
あきらめるのは早計です。借金の存在を知らなかった相当の理由があれば、それを知った時点から3ヶ月と扱われ、放棄が認められる余地があります。最高裁の判例(昭和59年4月27日)が示した考え方です。
ただし認められるかどうかはケースごとの判断になります。督促状が届いてから慌てて動くより、早い段階で専門家に相談されることをおすすめします。
ご相談事例
50代女性・疎遠だった父の死後4ヶ月で借金の督促が届いたケース
【ご相談内容】
20年以上音信不通だったお父様が亡くなり、市役所からの通知で死亡を知ったのが2ヶ月後。その後さらに2ヶ月経ってから、消費者金融から約350万円の督促状が届きました。「もう3ヶ月を過ぎているから手遅れでは」とご相談にお越しになりました。
【対応結果】
財産調査を行い、プラスの財産が預貯金約20万円のみで、借金の存在を知る機会がなかった経緯を裏づける資料を整理。督促状の到達日を熟慮期間の起算点とする上申書を添えて、相続放棄の申述書類を作成しました。相談から約3週間で家庭裁判所へ申述し、受理通知が届いたのはその1ヶ月後。次順位となるお父様のご兄弟へのご連絡についても、あわせてサポートしています。
相続放棄と限定承認の費用はいくらかかりますか?
自分で手続きする場合、相続放棄は数千円、限定承認は官報公告費用を含めて5万円前後が目安です。専門家に依頼した場合の目安は、相続放棄が3万〜7万円、限定承認が30万円以上です。
内訳を整理しました。
| 費用項目 | 相続放棄 | 限定承認 |
|---|---|---|
| 収入印紙 | 800円(相続人1人あたり) | 800円(申述1件あたり) |
| 連絡用の郵便切手 | 数百円〜1,000円程度 | 数百円〜1,000円程度 |
| 戸籍謄本などの取得費 | 1通450円、除籍・改製原戸籍は1通750円 | 1通450円、除籍・改製原戸籍は1通750円 |
| 官報公告費用 | 不要 | 4万〜5万円程度 |
| 鑑定人の予納金 | 不要 | 不動産がある場合は数十万円(費用目安:20万〜50万円程度) |
| 専門家報酬の目安 | 費用目安:3万〜7万円程度 | 費用目安:30万〜60万円程度 |
限定承認の費用が高くなるのは、清算手続きが実質的に管財業務だからです。財産の換価、債権者への配当、税務申告まで含めれば、負担の差は納得できるはず。
なお、相続放棄の申述書類の作成は司法書士に依頼できます。財産調査から次順位の相続人への連絡まで、まとめてサポートを受けられます。
相続放棄と限定承認に関するよくある質問
Q1. 相続放棄と限定承認はどちらが得ですか?
借金が明らかに多いなら相続放棄、判断がつかないなら限定承認が向いているとされています。限定承認は財産以上の借金を負わずに済む仕組みですが、みなし譲渡所得税と手続きの手間という代償があります。財産の内訳が把握できているかどうかで判断してください。
Q2. 相続放棄をしたら生命保険金も受け取れませんか?
受取人が指定された生命保険金は、相続放棄をしても受け取れます。保険金は相続財産ではなく、受取人固有の財産だからです。ただし相続税の計算では、放棄した人は非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使えない点に注意してください。
Q3. 一度した相続放棄は取り消せますか?
家庭裁判所に受理された相続放棄は、原則として撤回できません(民法919条1項)。だまされて放棄した場合など限られた事情があれば取消しを申し立てられますが、認められるハードルは高いのが実情です。
Q4. 限定承認をすると実家に住み続けられますか?
先買権を使えば住み続けられる可能性があります(民法932条但書)。家庭裁判所が選任した鑑定人の評価額を自分で支払えば、競売にかけずに取得できる仕組みです。ただし買い取り資金は自分で用意する必要があります。
Q5. 相続人が1人しかいない場合でも限定承認できますか?
1人でも限定承認できます。全員の同意が必要というルールは、相続人が複数いる場合の話だからです。むしろ相続人が1人のほうが意見調整が不要で、手続きは進めやすくなります。
Q6. 相続放棄をしたら家の管理はしなくていいですか?
現に住んでいるなど占有している場合は、次の管理者へ引き渡すまで保存義務が残ります(民法940条1項)。2023年4月の改正で、占有していない相続人には義務が及ばないと整理されました。空き家を放置して損害が出れば責任を問われる可能性があるため、早めに相続財産清算人の選任を検討してください。
Q7. 相続放棄の手続きは司法書士に頼めますか?
司法書士が申述書類の作成をお引き受けできます。財産調査、戸籍の収集、家庭裁判所への提出書類の作成まで対応可能です。限定承認後に不動産が残る場合の相続登記も、そのまま担当いたします。
まとめ|迷ったら「調査してから決める」が正解
この記事のポイントをまとめます。
- 相続放棄は財産も借金もすべて引き継がない手続き、限定承認はプラスの財産の範囲でだけ借金を引き継ぐ手続き
- どちらも期限は、相続開始を知った日から3ヶ月以内。家庭裁判所への申述が必要
- 限定承認は相続人全員の同意・みなし譲渡所得税・清算の手間という3つの壁があり、年間700件前後しか使われていない
- 3ヶ月に間に合わないときは、期間伸長の申立てを期限内に行う
- 財産に手をつけると単純承認とみなされ、選択肢そのものを失う
いちばん多い失敗は、借金の督促に驚いて急いで相続放棄をしたあと、実は財産のほうが多かったと判明するパターンです。3ヶ月は短いようで、調査に動けば十分な時間があります。
やなぎ総合法務事務所では、相続財産の調査、相続放棄の申述書類の作成、限定承認後の相続登記までを一貫してサポートしています。みなし譲渡所得税の試算や準確定申告が必要な場面では、提携税理士と連携して対応します。ご相談は無料です。期限のある手続きですので、督促状が届いた段階、判断に迷った段階でお早めにご相談ください。
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著者情報
代表 柳本 良太

- <所属>
- 司法書士法人 やなぎ総合法務事務所 代表社員
- 行政書士法人 やなぎKAJIグループ 代表社員
- やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役
- 桜ことのは日本語学院 代表理事
- LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師
- <資格>
- 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
- 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
- 2009年 司法書士試験合格
- 2010年 行政書士試験合格














