農地・田園風景を背景に、住宅模型を前にして契約書に記入する手元の様子

農地を相続したら、法務局での相続登記と農業委員会への届出の2つの手続きが必要です。2024年4月から相続登記は義務化され、怠ると過料の対象になります。早めの手続きが安心です。

◆ この記事でわかること

  1. 農地の相続で必要な2つの手続き(相続登記・農業委員会への届出)の流れと必要書類
  2. 相続登記にかかる費用・登録免許税と、義務化による過料のルール
  3. 農業を続けない場合の選択肢(売却・転用・相続放棄)と相続税の納税猶予

※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年6月

目次

農地の相続登記とは何ですか?

農地の相続登記とは、亡くなった方の農地(田や畑)の名義を、相続人へ変更する手続きのことです。法務局に申請して、土地の所有者を正式に書き換えます。登記をしないと、その農地が誰のものか公的に証明できず、売却や担保設定もできません。

農地が宅地など他の土地と違うのは、相続登記に加えて「農業委員会への届出」というもう1つの手続きが必要になる点です。農地は食料生産の基盤として農地法で守られており、所有者が変わったことを地域の農業委員会(市町村に置かれる行政委員会)へ知らせる義務があります。

登記を後回しにすると、農地が売れない・担保にできないだけでなく、相続人がさらに亡くなって関係者が増え、手続きがどんどん複雑になります。農地の相続登記は、トラブルを未然に防ぐための土台といえます。

農地の相続で必要になる2つの手続き

農地を相続したら、次の2つを行います。役割が異なるため、両方とも欠かせません。

  • 法務局への相続登記……土地の名義を相続人へ変更する手続き
  • 農業委員会への届出……農地を相続したことを地域の農業委員会へ知らせる手続き

売買や贈与で農地を取得する場合は農業委員会の「許可」が必要ですが、相続の場合は許可ではなく「届出」で足りるのが特徴です。相続は本人の意思で起きるものではないため、許可制になじまないからです。許可と届出の違いは、農地相続でつまずきやすいポイントの1つなので覚えておきましょう。

そもそも農地とは何を指すのか

農地とは、田や畑など「耕作のために使われている土地」を指します(農地法2条)。登記簿上の地目(土地の種類)が「田」「畑」になっている土地が代表例です。実際に耕作している土地であれば、登記簿上は別の地目でも農地として扱われることがあります。家庭菜園程度の小さな土地は農地に当たらない場合もあり、判断に迷うときは農業委員会に確認すると確実です。

農地の相続登記はいつまでに行う必要がありますか?

相続登記は、相続を知った日から3年以内に行う義務があります。2024年4月1日から相続登記が義務化されたためです。正当な理由なく期限を過ぎると、10万円以下の過料(行政上のペナルティ)が科される可能性があります。

過去に相続した農地も対象です。2024年4月より前に相続した農地で登記が済んでいないものは、2027年3月末までに登記する必要があります。「親の代からそのままになっている田畑」がある方は、早めの確認をおすすめします。

なお、すぐに遺産分割がまとまらない場合は、「相続人申告登記」という簡易な手続きで義務を果たすこともできます。相続人であることを法務局に申し出るだけの制度で、正式な相続登記の準備が整うまでの間、過料を避けるための一時的な対応として使えます。ただし、これは正式な登記ではないため、最終的には遺産分割に基づく相続登記が必要です。

そもそも義務化の背景には、所有者不明土地の問題があります。登記されないまま放置された土地が全国で増え、公共事業や災害復旧の妨げになってきました。農地は特に放置されやすく、耕作放棄地の増加は地域全体の課題です。義務化は、こうした土地を減らすための国の対策の1つです。

【注意】

農業委員会への届出は、相続を知ってから10ヶ月以内という別の期限があります。期限を過ぎると10万円以下の過料の対象です。相続登記の3年以内とは期限が異なるため、混同しないよう注意してください。

農地の相続登記の手続きの流れを教えてください

田園風景の見える窓辺で、スーツ姿の担当者が住宅模型と書類を前に契約書へ記入する様子

農地の相続登記は、戸籍収集から法務局への申請まで5つのステップで進みます。一般的な遺産分割(相続人で分け方を決めること)による登記の流れは次のとおりです。

STEP 1相続人と農地を確定する

亡くなった方の出生から死亡までの戸籍を集めて相続人を確定し、登記簿や名寄帳で農地の所在地を把握します。

STEP 2遺産分割協議を行う

相続人全員で誰が農地を相続するかを話し合い、遺産分割協議書を作成して全員が実印を押します。

STEP 3必要書類をそろえる

戸籍謄本・住民票・固定資産評価証明書・印鑑証明書などを集めます。

STEP 4法務局へ相続登記を申請する

農地を管轄する法務局に申請書と書類一式を提出します(登録免許税の納付が必要)。

STEP 5農業委員会へ届出する

登記完了後、登記事項証明書を添えて市町村の農業委員会へ届け出ます。

書類がそろっていれば、法務局での登記完了まで1〜2週間程度が目安です。戸籍収集に時間がかかることが目立ち、全体では1〜3ヶ月みておくと安心です。

なお、農地が遠方にある場合でも、登記申請は郵送やオンラインでも行えます。大阪や東京にお住まいの方が、地方の実家の田畑を相続する例は珍しくありません。現地へ行かずに手続きを完結できるかどうかも、専門家に確認してみてください。

農地の相続登記に必要な書類は何ですか?

遺産分割による農地の相続登記では、戸籍謄本・住民票・遺産分割協議書・固定資産評価証明書などが必要です。主な書類は次のとおりです。

  • 登記申請書
  • 被相続人(亡くなった方)の出生から死亡までの戸籍謄本一式
  • 被相続人の住民票の除票(または戸籍の附票)
  • 相続人全員の現在の戸籍謄本
  • 農地を相続する相続人の住民票
  • 遺産分割協議書(相続人全員の実印を押したもの)
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 固定資産評価証明書(登録免許税の計算に使用)

遺言書がある場合は遺産分割協議書や他の相続人の印鑑証明書が不要になるなど、書類は状況で変わります。農業委員会への届出には、届出書と相続登記後の登記事項証明書を用意します。

書類集めのコツは、市区町村役場で「名寄帳(なよせちょう)」を取得することです。その市区町村内で被相続人が所有していた不動産の一覧が確認でき、登記簿に載っていない農地や山林の見落とし防止に役立ちます。

農地の相続登記にかかる費用はいくらですか?

農地の相続登記の費用は、登録免許税(固定資産評価額の0.4%)と司法書士報酬が中心です。たとえば評価額500万円の農地なら登録免許税は2万円です。費用の内訳を整理しました。

主な費用は次の表のとおりです。

費用の種類金額の目安内容
登録免許税固定資産評価額の0.4%評価額500万円なら2万円。法務局へ納める税金
司法書士報酬6万〜10万円程度登記の依頼費用。農地の数や難易度で変動
戸籍・証明書の取得費数千円〜2万円程度戸籍謄本・住民票・評価証明書などの実費
農業委員会届出無料〜数百円程度届出自体は基本無料。証明書取得の実費のみ

農地は評価額が宅地より低いことが目立ち、登録免許税は比較的おさえられる傾向があります。一方で、農地が複数の市町村にまたがる、相続人が多いといった場合は戸籍収集や調整の手間が増え、司法書士報酬が高くなることもあります。

専門家としての見解・アドバイス

【ご相談内容】

これまで数えきれないほどの農地の相続登記をお手伝いしてきた経験から申し上げると、農地相続でつまずきやすいのが「登記簿に載っていない農地」の存在です。先代名義のまま放置された田畑が、名寄帳を取り寄せて初めて見つかる例が少なくありません。1筆漏らすと、後日また登記をやり直すことになります。
また、農業委員会への10ヶ月以内の届出を見落とし、過料の通知が届いてから慌ててご相談に来られる方もいらっしゃいます。相続登記の3年と届出の10ヶ月は期限が別物です。当事務所では、農地の調査・戸籍収集・登記・農業委員会への届出までを一括でお引き受けし、提携の税理士と連携して納税猶予の判断までサポートしています。

農業をしない場合、相続した農地はどうすればよいですか?

農業を続けない場合でも、まず相続登記は必要です。そのうえで、農地を「売却」「転用」「貸す」「相続放棄」などから選びます。それぞれの特徴を比較しました。

農業をしない方が取り得る主な選択肢は次のとおりです。

選択肢ポイント注意点
農家・農業法人へ売却農地のまま売る。農業委員会の許可が必要買い手が見つかりにくい地域もある
農地転用して活用・売却宅地や駐車場に変える。許可・届出が必要市街化調整区域では転用が難しい場合がある
農地中間管理機構などへ貸す農地のまま貸して賃料を得る借り手とのマッチングが前提
相続放棄農地を含む全財産を相続しない預貯金など他の財産も放棄することになる

注意したいのは、相続放棄をすると農地だけでなく預貯金や自宅などすべての財産を相続できなくなる点です。「いらない農地だけ手放す」ことはできません。また、相続放棄には相続を知った日から3ヶ月以内という期限があります(民法915条)。農地を放置すると、雑草や害虫で近隣に迷惑をかけたり、管理責任を問われたりするリスクもあるため、早めに方針を決めることが大切です。

農地を放置するとどうなるのか

使い道が決まらないからといって農地を放置すると、いくつもの不利益が生じます。耕作されない農地は雑草が生い茂り、害虫や病気の発生源になって周囲の農家に迷惑をかけることがあります。自治体から管理を求める指導が入ったり、状況によっては相続人が損害賠償を求められたりする可能性もゼロではありません。さらに、登記をしないまま次の世代に引き継がれると、相続人がねずみ算式に増え、いざ売ろうとしたときに全員の同意が取れず手続きが行き詰まります。「とりあえず放置」が将来の家族の負担になる前に、活用か手放すかの方針を早めに決めておきましょう。

農地を相続すると相続税の納税猶予は受けられますか?

相続した方が引き続き農業を続ける場合、一定の要件を満たせば相続税の納税猶予の特例を受けられます。農業を続ける限り、農地にかかる相続税の納付が猶予される制度です。最終的に免除されることもあります。

この特例は、農業の担い手を守るために設けられています。猶予を受けるには、相続税の申告期限(相続を知った日の翌日から10ヶ月以内)までに申告し、担保を提供するなどの手続きが必要です。猶予された税額は、相続人が農業をやめたり農地を売却したりすると、利子税とあわせて納めることになります。

主な適用条件は次のとおりです。条件を1つでも満たさないと、特例は受けられません。

  • 亡くなった方が、死亡の日まで農業を営んでいたこと
  • 相続した人が、相続税の申告期限までに農業を始め、その後も続ける見込みであること
  • 相続税の申告期限までに遺産分割が終わり、農地の取得者が確定していること

一方、終身にわたり農業を続けると猶予税額が免除される場合があります。長期で見れば大きな節税につながる制度ですが、条件の判断が難しいため、利用前の確認が欠かせません。

【注意】

納税猶予は要件が細かく、途中で農業をやめると猶予が打ち切られて多額の税金を一括で求められることがあります。利用を検討する場合は、農地相続に詳しい税理士への相談をおすすめします。

ご相談事例

親名義のまま放置された農地を相続した60代男性のご相談

【ご相談内容】

大阪府内にお住まいの60代男性。亡くなったお父様名義の畑3筆を相続したものの、登記をどう進めればよいか分からず、当事務所の無料相談へお越しになりました。調べると、祖父名義のままの農地も1筆残っていることが判明しました。

【対応結果】

当事務所が名寄帳で全農地を洗い出し、祖父・父の2世代分の戸籍を収集。遺産分割協議書の作成から法務局への相続登記、農業委員会への届出までを一括対応し、ご相談から約2ヶ月で完了しました。農業は継続されないとのことで、提携の税理士とも連携し、今後の売却を見据えた進め方までご案内しました。

農地の相続登記に関するよくある質問

Q1. 農地の相続登記をしないとどうなりますか?

2024年4月から相続登記は義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しないと10万円以下の過料の対象になります。さらに、登記をしないと農地の売却や担保設定ができず、次の相続でさらに手続きが複雑になります。

Q2. 農地を相続したら農業委員会への届出は必要ですか?

必要です。相続を知ってから10ヶ月以内に、農地のある市町村の農業委員会へ届け出ます。届出を怠ると10万円以下の過料が科される場合があります。売買と違い、相続では許可ではなく届出で足ります。

Q3. 農地の相続登記は自分でできますか?

自分で申請することも可能です。ただし、農地は戸籍収集や評価額の確認、農業委員会への届出など手続きが複雑で、登記漏れも起きやすい分野です。手間や正確さを考え、司法書士に依頼する方が大半を占めるのが実情です。

Q4. 農地の相続登記の費用はいくらかかりますか?

登録免許税(固定資産評価額の0.4%)と司法書士報酬6万〜10万円程度が中心です。評価額500万円の農地なら登録免許税は2万円で、これに戸籍などの実費が加わります。

Q5. 農地だけ相続放棄することはできますか?

できません。相続放棄をすると、農地だけでなく預貯金や自宅などすべての財産を相続できなくなります。相続放棄には相続を知った日から3ヶ月以内という期限もあるため、慎重な判断が必要です。

Q6. 市街化調整区域の農地でも相続登記は必要ですか?

必要です。区域に関係なく、農地を相続したら相続登記と農業委員会への届出を行います。ただし市街化調整区域では宅地などへの転用が難しいことが目立ち、活用方法は専門家に相談するのが安心です。

Q7. 相続した農地の名義人が祖父のままでも登記できますか?

登記できますが、祖父から父、父から自分へと複数回分の相続手続きが必要になります(数次相続)。世代が増えるほど相続人が多くなり手続きが複雑になるため、早めに整理することをおすすめします。

まとめ|農地の相続登記は「2つの手続き」と「2つの期限」を押さえよう

この記事のポイントをまとめます。

  • 農地の相続には、法務局への相続登記と農業委員会への届出の2つの手続きが必要
  • 相続登記は2024年4月から義務化され、相続を知った日から3年以内に行わないと過料の対象
  • 農業委員会への届出は相続を知ってから10ヶ月以内。期限が別なので混同に注意
  • 費用は登録免許税(評価額の0.4%)と司法書士報酬6万〜10万円程度が中心
  • 農業を続ける場合は相続税の納税猶予、続けない場合は売却・転用・相続放棄を検討

農地の相続は、戸籍収集や農業委員会への届出、納税猶予の判断など、宅地の相続より手続きが複雑です。登記漏れや期限切れを防ぐためにも、早めに専門家へ相談するのが安心です。やなぎ総合法務事務所では、農地の調査から相続登記、農業委員会への届出まで一括で対応し、大阪(天王寺・あべの)と東京(恵比寿・広尾)の2拠点で無料相談を受け付けています。司法書士のほか税理士・土地家屋調査士などの専門家が連携しますので、農地の相続でお困りの際はお気軽にご相談ください。

電話相談

24時間WEB予約お問い合わせ

 

相続サイト
所在地
  • 大阪市阿倍野区阿倍野筋三丁目10番1号 あべのベルタ 3009号
  • 東京都渋谷区東3-6-18 プライムハウス 203号
その他
    • 受付時間 9:00 ~ 20:00
    • 土日祝日:10:00~18:00
    • 電話予約により時間外対応可能

著者情報

代表 柳本 良太

お問い合わせ

 

    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所