認知症で銀行口座から引き出しできない?口座凍結の対処法と事前対策

認知症で判断能力が低下したと銀行が知ると、口座は凍結され、家族でも預金を引き出せなくなります。凍結後の解除方法は成年後見制度の利用が原則です。一方、元気なうちなら家族信託など柔軟な対策を選べます。
◆ この記事でわかること
- 認知症で銀行口座が凍結される理由とタイミング
- 凍結された口座からお金を引き出す方法(全国銀行協会の指針・成年後見制度)
- 口座凍結を防ぐ4つの事前対策と費用目安
※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年6月
目次
- 認知症になると銀行口座は凍結されるのですか?
- 銀行はいつ・なぜ口座を凍結するのですか?
- 全国銀行協会の指針で家族でも引き出せるようになったのですか?
- 凍結された口座からお金を引き出すにはどうすればよいですか?
- 成年後見制度のデメリットは何ですか?
- 口座凍結を防ぐ事前対策にはどんな方法がありますか?
- 家族信託はなぜ認知症対策に有効なのですか?
- ご相談事例
- 認知症と銀行口座に関するよくある質問
- まとめ|認知症による口座凍結は「元気なうちの対策」で防げる
認知症になると銀行口座は凍結されるのですか?
認知症で判断能力が低下したことを銀行が知ると、口座は凍結され、預金の引き出しができなくなります。口座凍結とは、銀行が出金・解約・振込などの取引を停止する措置のことです。本人が生きていても、判断能力(自分の行為の意味を理解する力)がないと確認できれば、銀行は取引を止めます。
背景には、認知症の方の急増があります。厚生労働省の推計では、2025年に認知症の方は約700万人に達し、65歳以上の高齢者の約5人に1人が認知症になるとされています。認知症の方が保有する金融資産は今後200兆円を超え、日本の家計金融資産の1割超を占めるという民間シンクタンクの試算もあります。凍結は決して特別なケースではなく、どの家庭にも起こり得る問題です。
死亡時の口座凍結との違い
口座凍結というと「亡くなったときの話」と思われがちですが、認知症による凍結は理由が異なります。死亡時の凍結は、遺産分割(相続人で財産の分け方を決めること)が終わるまで預金を保全するためのものです。一方、認知症による凍結は、本人が詐欺や横領、使い込みなどの被害に遭わないよう、本人の財産を守るための措置です。
また、死亡時はすべての取引が止まりますが、認知症の場合は年金の振り込みや公共料金の引き落としなど「入金・自動引き落とし」は継続されるのが一般的です。止まるのは、窓口やATMでの出金、定期預金の解約といった「本人の意思確認が必要な取引」です。
凍結されると何ができなくなるのか
凍結後にできなくなる主な取引は次のとおりです。
- 窓口・ATMでの預金の引き出し
- 定期預金の解約
- 振込・振替などの送金手続き
- 貸金庫の開閉や投資信託の売却
介護施設の入居一時金は100万〜1,000万円程度かかることもあり、親のお金を親のために使えない状態は、家族の生活に直結する深刻な問題になります。
銀行はいつ・なぜ口座を凍結するのですか?
口座が凍結されるのは、銀行が「本人の判断能力が低下している」と知った時点です。認知症と診断されても、その情報が自動的に銀行へ伝わる仕組みはありません。診断イコール即凍結ではない点を、まず押さえてください。
凍結される主なタイミング
実際に凍結につながりやすいのは、次のような場面です。
- 本人が窓口で手続きした際、会話やATM操作の様子から行員が判断能力の低下に気づいたとき
- 家族が「親が認知症になったので代わりに手続きしたい」と銀行に申し出たとき
- 定期預金の解約や多額の出金など、本人の意思確認が必要な手続きを行おうとしたとき
良かれと思って家族が認知症を申告した結果、その場で凍結されたというご相談は少なくありません。申し出る前に、対処法を知っておくことが大切です。
銀行が凍結する3つの理由
銀行が口座を凍結する理由は主に3つあります。第一に、預金の引き出しには本人の意思確認が必要で、判断能力がないと確認のしようがないため。第二に、本人が引き出したことを忘れて「お金が盗まれた」と訴えるなどのトラブルを防ぐため。第三に、家族の一部による使い込みや相続争いに銀行が巻き込まれることを避けるためです。凍結は嫌がらせではなく、本人の財産を守るための仕組みといえます。
家族がキャッシュカードで引き出し続けても大丈夫ですか?
おすすめできません。本人の意思確認ができない状態での引き出しは、法的トラブルや相続争いの火種になります。暗証番号を知っていれば凍結前はATMで引き出せてしまいますが、「引き出せる」ことと「問題がない」ことは別の話です。
リスクは大きく2つあります。1つ目は、法的責任を問われる可能性です。本人の同意なく預金を引き出して自分のために使えば、家族であっても不法行為や横領にあたるおそれがあります。2つ目は、相続トラブルです。親の死後、他の相続人から「生前に使い込んだのではないか」と疑われ、引き出した記録が遺産分割協議(相続人全員での話し合い)の争点になるケースが目立ちます。
やむを得ず本人のためにカードで支払いをする場合は、領収書や請求書を残し、使い道を説明できるようにしておいてください。介護費用なら施設の請求書と引き出し額を1対1で対応させるのが理想です。
【注意】
家族カード(代理人カード)も、本人の判断能力が失われた後は利用できないのが原則です。「カードがあるから大丈夫」とは考えないでください。
全国銀行協会の指針で家族でも引き出せるようになったのですか?
2021年2月に全国銀行協会が公表した指針により、医療費・介護費など本人の利益が明らかな支払いに限り、親族による引き出しに柔軟に対応する方向性が示されました。指針の正式名称は「金融取引の代理等に関する考え方」です。成年後見制度の利用を基本としつつ、緊急時の特例として家族の引き出しを認め得るとした点で、大きな前進といえます。
銀行に相談する際は、次のような書類を求められるのが一般的です。
- 本人の判断能力を確認できる書類(医師の診断書など)
- 本人との関係がわかる書類(戸籍謄本など)
- 本人のための支払いであることがわかる書類(病院・介護施設の請求書など)
ただし、指針はあくまで「考え方」であり、法律ではありません。対応するかどうかの最終判断は各銀行に委ねられており、引き出せる保証はない点に注意してください。また、認められるのは個別の支払いに限られ、家族が継続的に預金を管理する手段にはなりません。困ったときは、まず取引銀行の窓口で相談することから始めましょう。
凍結された口座からお金を引き出すにはどうすればよいですか?

凍結を正式に解除する方法は、成年後見制度(法定後見)の利用が原則です。成年後見制度とは、判断能力が不十分な方に代わり、家庭裁判所が選んだ成年後見人が財産管理や契約を行う制度です(民法7条)。後見人が選任されると、後見人が本人に代わって預金の引き出しや解約を行えるようになります。
手続きの流れは次のとおりです。
かかりつけ医に家庭裁判所所定の書式で作成を依頼します(費用目安:数千円〜1万円程度)。
申立書・財産目録・戸籍謄本・住民票などを集めます。
本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します(申立手数料800円+登記手数料2,600円+郵便切手代)。
裁判所の調査や審問を経て後見人が選ばれます(申立てから1〜3ヶ月程度が一般的)。
後見の登記事項証明書を銀行に提示し、後見人名義で取引できるようにします。
申立ての準備期間も含めると、実際に預金を動かせるまで3〜4ヶ月かかるケースもあるとされています。判断能力の鑑定が必要な場合は、別途10万〜20万円程度の鑑定費用がかかることもあります。介護費用の支払いが迫っている場合は、できるだけ早く動き出すことが重要です。
成年後見制度のデメリットは何ですか?
最大のデメリットは、一度始まると原則として本人が亡くなるまでやめられず、専門職後見人への報酬が続く点です。口座凍結の解除には有効な制度ですが、利用前に次の点を理解しておく必要があります。
- 家族が後見人に選ばれるとは限らない。司法書士や弁護士などの専門職が選任されるケースが多数を占めるとされています
- 専門職後見人への報酬は月2万〜6万円程度が目安で、本人が亡くなるまで続きます(10年続けば総額240万〜720万円程度)
- 財産の使い道は「本人の利益」に限定され、生前贈与や資産の組み替え、相続税対策などの柔軟な財産活用はできなくなります
- 途中で「やっぱりやめたい」と思っても、原則として途中でやめることはできません
専門家としての見解・アドバイス
【ご相談内容】
これまで数えきれないほどの後見申立てをサポートしてきた経験から申し上げると、ご家族が一番後悔されるのは「制度の縛りの強さを知らずに申し立ててしまった」ケースです。凍結解除だけが目的だったのに、月々の報酬負担と裁判所への報告義務が想定外だった、というご相談を繰り返しお受けしてきました。
一方で、介護費用の支払いが目前に迫っているなら、成年後見は確実性の高い解決策です。大切なのは、ご家族の状況を整理したうえで「後見を使うべきか、指針に基づく銀行相談で足りるか」を見極めること。当事務所では司法書士のほか提携の弁護士・税理士・FPと連携し、申立て前の段階から費用シミュレーションを含めてアドバイスしています。
口座凍結を防ぐ事前対策にはどんな方法がありますか?
本人が元気なうちにできる代表的な対策は、代理人指名手続・任意後見制度・生前贈与・家族信託の4つです。いずれも本人に判断能力があるうちにしか利用できません。それぞれの特徴を比較してみましょう。
4つの対策の違いは次の表のとおりです。
| 対策 | 発症後も使える? | 費用目安 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 代理人指名・代理人カード | 原則使えなくなる | 無料〜数百円 | 銀行ごとの手続き。手軽だが判断能力喪失後は停止される |
| 任意後見制度 | 使える | 公正証書作成約2万円+監督人報酬月1万〜3万円 | 本人が後見人を自分で選べる。家庭裁判所の監督付き |
| 生前贈与 | 贈与済み分は影響なし | 年110万円まで贈与税非課税 | 財産そのものを家族へ移す。贈与税・相続への影響に注意 |
| 家族信託 | 使える | 30万〜100万円程度(財産額による) | 家族に管理を託す契約。発症後も柔軟な財産管理が可能 |
①代理人指名手続・代理人カード
本人があらかじめ銀行に届け出て、指定した家族が代わりに引き出せるようにする手続きです。費用はかからず手軽に始められますが、取り扱いは銀行ごとに異なります。本人の判断能力が失われた後は利用を停止されるのが原則のため、あくまで「当面の備え」と考えてください。
②任意後見制度
任意後見制度とは、元気なうちに「将来の後見人」を自分で選び、公正証書で契約しておく制度です。法定後見と違って後見人を家族から選べるのが利点です。一方、発症後は家庭裁判所が任意後見監督人(後見人を監督する専門職)を選任し、その報酬として月1万〜3万円程度の負担が続きます。
③生前贈与
財産そのものを元気なうちに家族へ移してしまう方法です。贈与した分は本人の口座から離れるため、凍結の影響を受けません。年110万円までの贈与であれば贈与税はかかりませんが、110万円を超えると贈与税が発生します。亡くなる直前の贈与は相続税の計算に加算される場合があるなど税務上の論点も多いため、相続税対策を兼ねる場合は税理士を交えた検討をおすすめします。
④家族信託(民事信託)
家族信託は、財産の管理・処分の権限を信頼できる家族に託す契約です。発症後も契約に基づいて家族が財産を管理し続けられるため、認知症対策として近年最も注目されている方法です。詳しくは次の章で解説します。
どれか1つに絞る必要はありません。たとえば「日常の入出金は代理人指名、自宅と預金の管理は家族信託」のように組み合わせるご家庭も多くあります。財産の規模やご家族の構成によって最適解は変わるため、専門家と一緒に設計するのが近道です。なお、遺言書の作成は「亡くなった後」の財産の行き先を決めるもので、認知症発症後の財産管理はカバーできません。生前対策と相続対策はセットで考えると無駄がありません。
家族信託はなぜ認知症対策に有効なのですか?
家族信託が有効なのは、本人が元気なうちに財産の管理権限を家族へ移しておくことで、発症後も口座凍結の影響を受けずに財産を動かせるからです。家族信託(民事信託)とは、本人(委託者)が信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分を託す契約のことです。
たとえるなら、財産の「名義の鍵」を元気なうちに子どもへ預けておくイメージです。信託した預金は受託者名義の信託口口座(信託専用の銀行口座)で管理されるため、本人が認知症になっても凍結されず、受託者が介護費や生活費を支払い続けられます。
成年後見制度と違って家庭裁判所の監督や月々の報酬は不要で、財産の活用方法も契約で自由に設計できます。自宅の売却や賃貸、アパートの建て替えといった柔軟な対応ができるのは家族信託ならではの強みです。初期費用は30万〜100万円程度かかりますが、後見報酬のように毎月の負担が続かないため、長期では割安になるケースが多いとされています。
家族信託を始める流れ
家族信託は、一般的に次の流れで進めます。
誰に・どの財産を・何のために託すかを決めます。家族間の合意づくりが最も重要な工程です。
公証人が本人の意思を確認して作成するため、後日の紛争予防になります(費用目安:3万〜10万円程度)。
預金は信託口口座へ移し、不動産は受託者への信託登記を行います。
以後は本人が認知症になっても、受託者が契約に従って管理を続けられます。
契約内容の設計から運用開始まで、おおむね1〜3ヶ月が目安です。
家族信託の注意点
家族信託は万能ではありません。本人の身の回りの契約(施設入所契約など)を代理する権限は含まれないため、身上保護が必要な場合は任意後見との併用を検討します。また、受託者を引き受けてくれる信頼できる家族がいることが前提です。信託口口座に対応している金融機関が限られる点にも注意してください。こうした設計判断こそ、専門家の知見が活きる部分です。
ご相談事例
80代母の口座凍結が心配な50代長男からのご相談
【ご相談内容】
大阪市にお住まいの50代男性。一人暮らしの80代のお母様に物忘れの症状が出始め、「口座が凍結されたら施設費用を払えない」と当事務所の無料相談へお越しになりました。お母様の財産は預金約1,800万円と自宅不動産でした。
【対応結果】
医師の診断で意思能力に問題がないことを確認したうえで、預金と自宅を対象とする家族信託契約を設計。公正証書の作成と信託口口座の開設、自宅の信託登記までを当事務所が一括サポートし、ご相談から約2ヶ月で対策が完了しました。半年後にお母様の症状が進行しましたが、口座凍結の影響を受けず、長男様が信託口口座から施設入居費用を支払えています。
認知症と銀行口座に関するよくある質問
Q1. 認知症の親の口座からお金を引き出すと罪になりますか?
本人の同意なく自分のために使えば、家族でも法的責任を問われるおそれがあります。本人のための支出であれば直ちに問題となるわけではありませんが、後の相続トラブルを防ぐため、請求書や領収書を残しておいてください。
Q2. 認知症と診断されたら口座は自動的に凍結されますか?
自動的には凍結されません。診断情報が銀行へ伝わる仕組みはないためです。凍結されるのは、窓口での様子や家族の申し出などで、銀行が本人の判断能力低下を知ったときです。
Q3. 凍結された口座は成年後見制度以外で解除できますか?
正式な解除方法は成年後見制度の利用が原則です。ただし医療費・介護費など本人のための支払いに限り、全国銀行協会の指針に基づいて個別の引き出しに応じてもらえる場合があります。まずは取引銀行の窓口で相談してみてください。
Q4. 成年後見の申立てにかかる費用はいくらですか?
実費は申立手数料800円・登記手数料2,600円・郵便切手代などで、合計1万円前後が目安です。判断能力の鑑定が必要な場合は10万〜20万円程度が加わります。書類作成を司法書士に依頼する場合の報酬は別途10万〜20万円程度が一般的です。
Q5. 家族信託の費用はどれくらいかかりますか?
信託する財産の額にもよりますが、設計・公正証書作成・登記まで含めて30万〜100万円程度が目安です。初期費用はかかりますが、成年後見のような毎月の報酬負担はありません。
Q6. 軽度の認知症でも家族信託は契約できますか?
契約内容を理解できる意思能力が残っていれば、契約できる場合があります。公正証書の作成時に公証人が本人の意思を確認するため、診断名だけで一律に不可となるわけではありません。症状が軽いうちに、早めの相談をおすすめします。
Q7. 年金の振込口座が凍結されたら年金も受け取れなくなりますか?
年金の振り込み自体は凍結後も継続されるのが一般的です。ただし振り込まれた年金を引き出すことはできなくなるため、口座にお金が貯まる一方で使えない状態になります。生活費に充てるには成年後見等の手続きが必要です。
まとめ|認知症による口座凍結は「元気なうちの対策」で防げる
この記事のポイントをまとめます。
- 認知症で判断能力の低下を銀行が知ると口座は凍結され、家族でも引き出せなくなる
- 全国銀行協会の指針により、医療費・介護費などに限り親族の引き出しが認められる場合がある
- 凍結後の正式な解除方法は成年後見制度のみで、預金を動かせるまで3〜4ヶ月かかることもある
- 成年後見には専門職報酬が続く・途中でやめられないなどのデメリットがある
- 元気なうちなら代理人指名・任意後見・生前贈与・家族信託など柔軟な対策を選べる
口座凍結への備えは、本人に判断能力があるうちにしかできません。「まだ大丈夫」と感じている今が、実は最も対策の選択肢が多いタイミングです。やなぎ総合法務事務所では、家族信託の設計から成年後見の申立て書類作成まで、大阪(天王寺・あべの)と東京(恵比寿)の2拠点で無料相談を受け付けています。司法書士のほか弁護士・税理士・FPなどの専門家が連携してサポートしますので、ご家族の状況に合った対策を一緒に考えてみませんか。
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著者情報
代表 柳本 良太

- <所属>
- 司法書士法人 やなぎ総合法務事務所 代表社員
- 行政書士法人 やなぎKAJIグループ 代表社員
- やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役
- 桜ことのは日本語学院 代表理事
- LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師
- <資格>
- 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
- 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
- 2009年 司法書士試験合格
- 2010年 行政書士試験合格















