自宅で頬に手を当て、考え込むような表情を浮かべる中高年の女性

遺留分そのものをなくすことは原則できませんが、生前贈与・生命保険・養子縁組などを組み合わせれば、遺留分の額を減らすことは可能です。対策はすべて「元気なうちの準備」が前提になります。

◆ この記事でわかること

  1. 遺留分の基本(認められる相続人の範囲と割合)
  2. 遺留分を減らす5つの方法と、それぞれの注意点・落とし穴
  3. 遺留分を渡さずに済む例外的な方法(生前放棄・相続廃除)

※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年6月

目次

遺留分とは?減らすことはできるのですか?

遺留分(いりゅうぶん)とは、配偶者や子など一定の相続人に法律で保障された、遺産の最低限の取り分のことです。遺言で「全財産を長男に相続させる」と書いても、他の相続人の遺留分まで奪うことはできません。

遺留分を侵害された相続人は、遺産を多く受け取った人に対して「遺留分侵害額請求」(不足分をお金で支払うよう求める請求)ができます。2019年の民法改正により、遺留分は不動産そのものではなく金銭で精算する仕組みになりました。

この遺留分の権利自体を本人の同意なく消すことは、原則としてできません。一方で、遺留分の計算のもとになる財産を減らしたり、1人あたりの割合を小さくしたりする「合法的に減らす対策」は存在します。本記事では、その具体策を順に解説します。

遺留分が認められる相続人の範囲

遺留分が認められるのは、配偶者・子や孫(直系卑属)・親や祖父母(直系尊属)です。兄弟姉妹や甥姪には遺留分がありません(民法1042条)。つまり、相続人が兄弟姉妹だけの場合は、遺言ですべての財産を自由に渡せます。

遺留分の割合

遺留分全体の割合は、原則として遺産の2分の1です(相続人が親など直系尊属のみの場合は3分の1)。主な組み合わせごとの割合は次のとおりです。

相続人の組み合わせ遺留分の合計内訳
配偶者のみ1/2配偶者1/2
配偶者と子1人1/2配偶者1/4・子1/4
子2人のみ1/2子1人あたり1/4
父母のみ1/3父母で1/3
兄弟姉妹のみなし遺留分の権利なし

遺留分の計算例

具体例で確認しましょう。遺産6,000万円で相続人が妻と子2人の場合、遺留分の合計は2分の1の3,000万円です。内訳は妻が1,500万円、子が1人あたり750万円となります。仮に遺言で全財産を妻に渡しても、子はそれぞれ750万円を上限に金銭の支払いを請求できる、ということです。この「計算のもとになる財産」と「1人あたりの割合」のどちらかを小さくするのが、遺留分対策の基本的な考え方です。

遺留分を減らす方法にはどんなものがありますか?

遺留分を減らす代表的な方法は、生前贈与・生命保険の活用・養子縁組の3つです。さらに例外的な手段として、遺留分の生前放棄・相続廃除があります。全体像を表で整理しました。

方法仕組みハードル
生前贈与早めに財産を渡し、遺留分の計算対象から外す10年ルールと贈与税に注意
生命保険の活用死亡保険金は遺留分の計算に含まれない掛けすぎると例外扱いの恐れ
養子縁組相続人を増やし1人あたりの遺留分を薄める縁組の実態がないと無効リスク
遺留分の生前放棄本人が家庭裁判所の許可を得て放棄本人の意思+十分な代償が必要
相続廃除虐待等があった相続人の権利を奪う家庭裁判所の審査は厳格

どの方法にも共通するのは、相続が始まってからでは使えない、という点です。遺留分対策は遺言書の作成とセットで、元気なうちに進める生前対策そのものです。以下、それぞれの方法を詳しく見ていきます。

生前贈与で遺留分を減らせますか?

「相続」と書かれた資料を前に、スーツ姿の女性担当者がシニア夫婦に説明する相続相談の様子

減らせる可能性があります。相続人への生前贈与は相続開始前10年より古いもの、相続人以外への贈与は1年より古いものが、遺留分の計算から除外されるためです(民法1044条)。

遺留分は「相続時の財産+一定期間内の贈与」をもとに計算します。逆にいえば、早い時期に贈与を済ませるほど、計算のもとになる財産(基礎財産)が小さくなり、遺留分も減る仕組みです。たとえば、財産を渡したい子へ60代のうちから贈与を始めれば、10年経過分は遺留分の計算から外れていきます。

さらに応用として、財産を渡したい相続人に生前贈与をしたうえで、相続発生後にその人に相続放棄をしてもらう方法もあります。相続放棄をした人は「相続人以外」として扱われるため、1年より前の贈与が計算から外れ、他の相続人の遺留分を大きく減らせる場合があります。なお、相続放棄をした人は初めから相続人でなかったものと扱われますが、生前贈与と相続放棄を組み合わせて遺留分を減らす設計は、遺留分権利者を害する目的が疑われやすく、紛争リスクが高いため、実行前に弁護士・税理士を含めた慎重な検討が必要です。

【注意】

遺留分権利者を害すると知って行われた贈与は、何年前のものでも遺留分の計算に含まれます。また、年110万円を超える贈与には贈与税がかかり、振り込んだお金を口座に放置すると「名義預金」と判断される恐れもあります。実行前に専門家への確認をおすすめします。

生命保険で遺留分対策はできますか?

できます。死亡保険金は受取人固有の財産とされ、原則として遺留分の計算に含まれないためです。現金を保険に変えておくだけで、遺留分の基礎財産を減らす効果があります。

たとえば財産6,000万円のうち2,000万円で一時払い終身保険に加入し、受取人を長男にしたとします。この2,000万円は原則として遺留分の計算から外れるため、他の相続人の遺留分は4,000万円をもとに計算されることになります。長男に確実に金銭を残しつつ、遺留分も減らせる、使い勝手の良い方法です。

ただし、例外があります。保険金の額が遺産全体に比べて大きすぎる場合、判例上、特別受益(生前贈与と同じ扱い)に準じて計算に含められることがあります。遺産の半分を超えるような保険金は要注意です。生活資金を確保しながら、バランスを見て設計しましょう。現金を保険に変えれば必ず遺留分対策になるわけではないため、保険金額は遺産全体とのバランスを見て設計する必要があります。

養子縁組で遺留分を減らせますか?

減らせます。養子縁組で子の人数が増えると、子1人あたりの遺留分が薄まるためです。

たとえば子2人なら1人あたり1/8の遺留分が、養子を1人迎えて3人になると1/12に減ります。

孫や子の配偶者など、財産を渡したい人と養子縁組をすれば、「渡したくない相続人の遺留分を減らし、渡したい人の取り分を増やす」という2つの効果を同時に得られます。相続税の基礎控除も増えるため(実子がいる場合は養子1人まで、いない場合は2人まで算入)、節税につながることもあります。税理士への確認が必要です。

【注意】

遺留分を減らす目的だけで実態のない養子縁組をすると、親子関係を作る意思がないとして縁組が無効と判断される恐れがあります。他の相続人から無効の訴えを起こされ、かえって争いの火種になることもあるため、弁護士や税理士を含めて慎重に検討してください。

遺留分を渡さずに済む方法はありますか?

例外的に、遺留分の生前放棄と相続廃除という2つの方法があります。ただし、どちらも家庭裁判所が関与する厳格な手続きで、認められるケースは限られます。

遺留分の生前放棄(民法1049条)

相続人本人が、被相続人の生前に家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄する方法です。放棄が認められれば、その相続人は遺留分侵害額請求ができなくなります。ただし、放棄するかどうかは本人の自由で、強制はできません。家庭裁判所は「本人の自由な意思か」「すでに十分な生前贈与など代償を受けているか」を審査するため、代償なしの放棄が認められるのは難しいのが実情です。

相続廃除(民法892条)

被相続人への虐待・重大な侮辱・著しい非行があった推定相続人について、家庭裁判所に相続権そのものを奪うよう請求する制度です。廃除が認められると、その人は遺留分を含む一切の相続権を失います。生前に申し立てる方法と、遺言で廃除の意思を残し遺言執行者が申し立てる方法があります。ただし「親子げんかが多かった」程度では認められず、客観的な証拠に基づく相当深刻な事情が必要です。なお、廃除された人に子がいる場合、その子が代襲相続人として権利を引き継ぐ点にも注意が必要です。

なお、相続人になる予定の人が先に亡くなっている場合は、その子(孫や甥姪)が代襲相続人として権利を引き継ぎます。誰に遺留分があるのかは家族構成で変わるため、対策の前に相続関係図を作って全体を整理しておくと、検討がスムーズになります。

遺留分対策で注意すべきポイントは何ですか?

最大の注意点は、行き過ぎた対策はかえって無効・紛争のリスクを高めることです。対策を検討する際は、次の点を押さえてください。

  • 遺留分の権利自体は奪えない。対策はあくまで「減らす」「計算から外す」が基本
  • 害意があるとみなされた贈与は期間に関係なく遺留分の計算に戻される
  • 実態のない養子縁組や極端な保険契約は、無効・例外扱いと判断される恐れがある
  • 贈与税・相続税など税負担が変わるため、節税と遺留分対策のバランスが必要
  • 遺言書に「遺留分を請求しないでほしい」と書いても法的拘束力はない(付言事項)

専門家としての見解・アドバイス

【ご相談内容】

これまで遺留分対策のご相談を数えきれないほどお受けしてきた経験から申し上げると、いちばん危険なのは「亡くなる直前の駆け込み対策」です。死期が近づいてからの大型贈与や急な養子縁組は、害意の認定や縁組無効の主張を招きやすく、裁判で覆された例もあります。対策は10年単位の時間を味方につけてこそ効果を発揮します。
また、遺留分を完全にゼロにしようとするほど、相続発生後の争いは激しくなる傾向があります。当事務所では「最低限の遺留分は金銭で渡す」前提で遺言書と生命保険を設計し、提携の税理士・弁護士と連携して贈与税の負担や紛争リスクまで含めた現実的なプランをご提案しています。

ご相談事例

前妻の子への遺留分を抑えたい60代男性のご相談

【ご相談内容】

大阪市在住の60代男性。財産は約5,000万円で、相続人は後妻と子2人(うち1人は疎遠な前妻の子)。「いまの家族に財産を残したいが、前妻の子から遺留分を請求されるのが心配」と無料相談にお越しになりました。

【対応結果】

公正証書遺言の作成に加え、1,500万円の一時払い終身保険(受取人:後妻)への加入と、後妻の子への暦年贈与の開始をご提案。遺留分侵害額請求を受けた場合の支払見込額を試算上抑えつつ、請求があった場合にも金銭で対応できる設計にしました。ご相談から遺言完成まで約1ヶ月半。提携税理士と連携し、贈与税の負担シミュレーションまで一括でサポートしました。

遺留分に関するよくある質問

Q1. 遺言書で「遺留分を渡さない」と書けば有効ですか?

遺言自体は有効ですが、遺留分は遺言でも奪えない権利のため、遺留分を侵害する部分について侵害額請求を受ける可能性が残ります。「請求しないでほしい」という付言事項も、お願いにとどまり法的拘束力はありません。

Q2. 兄弟姉妹にも遺留分はありますか?

ありません。遺留分が認められるのは配偶者・子や孫・親や祖父母までで、兄弟姉妹や甥姪には認められていません(民法1042条)。相続人が兄弟姉妹だけなら、遺言で財産のすべてを自由に渡せます。

Q3. 遺留分侵害額請求には時効がありますか?

あります。相続の開始と遺留分の侵害を知ってから1年、知らなくても相続開始から10年で請求できなくなります(民法1048条)。請求する側にとっては短い期限のため、対策する側もこの期間を意識しておきましょう。

Q4. 生前贈与は何年前のものまで遺留分に含まれますか?

相続人への贈与は相続開始前10年以内、相続人以外への贈与は1年以内のものが原則として含まれます。ただし、遺留分権利者を害すると知って行った贈与は、期間に関係なく含まれます。

Q5. 家族信託で遺留分対策はできますか?

家族信託を使っても遺留分を当然に回避できるわけではありません。信託受益権の評価や信託設定の目的・内容によっては、遺留分侵害額請求や公序良俗違反が問題になる可能性があります。信託は財産管理や承継の設計に使い、遺留分対策は贈与や保険と組み合わせるのが現実的です。

Q6. 遺留分の生前放棄を頼むときの相場はありますか?

決まった相場はありませんが、家庭裁判所は放棄の代わりに十分な代償(生前贈与など)があるかを審査します。遺留分相当額に見合う贈与とセットで行うのが一般的で、代償のない放棄は許可されにくい傾向があります。

Q7. すでに相続が始まってしまった後でも遺留分は減らせますか?

相続開始後にできる対策はほとんどありません。遺留分の額は相続開始時点の財産で決まるためです。請求を受けた場合の支払い方法や分割払いの交渉といった対応が中心になるため、お困りの際は早めに専門家へ相談してください。

まとめ|遺留分対策は「時間」を味方につける生前対策

この記事のポイントをまとめます。

  • 遺留分は配偶者・子・親に保障された最低限の取り分で、遺言でも奪えない
  • 生前贈与は10年(相続人以外は1年)経過で遺留分の計算から外れる
  • 死亡保険金は原則遺留分の対象外。現金を保険に変えるだけで基礎財産を減らせる
  • 養子縁組は1人あたりの遺留分を薄める効果があるが、実態のない縁組は無効リスク
  • 遺留分の生前放棄・相続廃除は家庭裁判所の関与が必要で、ハードルが高い

遺留分対策は、早く始めるほど選択肢が増え、効果も大きくなります。一方で、方法の選び方を誤ると、無効リスクや税負担、家族の争いという形で跳ね返ってきます。やなぎ総合法務事務所では、遺言書の作成から生前贈与・家族信託の設計まで、大阪(天王寺・あべの)と東京(恵比寿・広尾)の2拠点で無料相談を受け付けています。司法書士のほか提携の弁護士・税理士とも連携し、ご家族の事情に合った現実的な遺留分対策をご提案しますので、お気軽にご相談ください。

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著者情報

代表 柳本 良太

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    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所