相続人の一人が遺産分割協議に応じないときの対処法と進め方

遺産分割は相続人全員の合意が必要なため、一人でも応じないと成立しません。まず相手が応じない理由を見極め、話し合いで解決できなければ家庭裁判所の遺産分割調停に進みます。感情的な対立が深いなら弁護士、書類作成や手続き面は司法書士がサポートできます。
◆ この記事でわかること
- 相続人が遺産分割協議に応じない5つの理由と、放置したときの深刻なリスク
- 説得・調停・審判へと進む段階的な対処法と、それぞれの費用の目安
- 弁護士と司法書士の役割の違いと、状況に応じた相談先の選び方
※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年7月
目次
- 相続人が一人でも応じないと遺産分割はできないのですか?
- 遺言書があれば遺産分割協議はしなくてよいですか?
- 相続人が遺産分割協議に応じないのはなぜですか?
- 遺産分割協議を放置するとどうなりますか?
- 応じない相続人にはどう対処すればいいですか?
- 遺産分割調停とはどのような手続きですか?
- 自分が遺産分割協議に応じたくない場合はどうすればいいですか?
- この問題は弁護士と司法書士のどちらに相談すべきですか?
- ご相談事例
- 遺産分割協議に応じない相続人に関するよくある質問
- まとめ|放置せず、段階を踏んで動くことが解決の近道
相続人が一人でも応じないと遺産分割はできないのですか?
できません。遺産分割協議は相続人全員の合意がなければ成立しないためです(民法907条1項)。一人でも反対したり参加しなかったりすれば、協議は完成しません。
たとえ他の相続人が全員賛成でも、一人が署名・押印を拒めば遺産分割協議書は無効です。多数決で決められない点が、遺産分割の難しいところ。
だからこそ、応じない一人への対応が相続手続き全体の鍵を握ります。まずは、なぜ応じないのかを理解することから始めましょう。
遺言書があれば遺産分割協議はしなくてよいですか?
有効な遺言書があり、財産の分け方がすべて指定されていれば、遺産分割協議は原則として不要です。遺言の内容が、相続人の合意より優先されるためです。
つまり、応じない相続人がいても、遺言書があればその指定どおりに手続きを進められます。まずは遺言書がないか確認してください。
ただし、注意点が2つあります。ひとつは、遺言書があっても相続人全員が同意すれば、内容と違う分け方をすることも可能な点。もうひとつは、遺留分(法定相続人に保障された最低限の取り分)を侵害する遺言だと、後から遺留分侵害額請求を受ける可能性がある点です。
遺言書が見つからない、または一部の財産しか指定されていない場合は、その財産について遺産分割協議が必要になります。
相続人が遺産分割協議に応じないのはなぜですか?
多くは「分け方に不満がある」「他の相続人と感情的に対立している」など理由があります。まず背景を見極めることが、解決の第一歩です。
代表的な理由は次の5つです。
- 分割内容に納得していない(自分の取り分が少ないと感じている)
- 他の相続人と過去のいきさつで感情的に対立している
- 特定の財産(実家など)を単独で相続したいと主張している
- 生前贈与や介護の貢献(寄与分)をめぐって言い分がある
- そもそも相続や手続きに関心がなく、連絡に応じない
理由によって、取るべき対応は変わります。分け方への不満なら条件を調整する余地がありますが、感情的な対立が根深い場合は当事者どうしの話し合いでは進みにくいもの。まずどのタイプかを見極めてください。
【注意】
連絡に応じない相続人が「行方不明」の場合は対応が異なります。家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立てるなど、別の手続きが必要になるため、早めに専門家へ相談してください。
遺産分割協議を放置するとどうなりますか?
放置すると、相続登記の義務違反や相続人の増加など、時間が経つほど解決が難しくなります。「そのうち話し合えばいい」と先延ばしにすると、取り返しのつかない事態を招きかねません。
主なリスクは次のとおりです。
相続登記の義務違反で過料の対象になる
2024年4月から相続登記が義務化されました。不動産を相続で取得したことを知った日から3年以内に登記しないと、10万円以下の過料の対象になります。遺産分割がまとまらず不動産の名義を変えられないと、この義務を果たせません。
相続人が増えて話し合いがさらに複雑になる
放置している間に相続人の誰かが亡くなると、その人の相続人が新たに加わります(数次相続)。当初は兄弟3人だった協議が、甥・姪まで巻き込んで10人以上に膨らむことも。人数が増えるほど合意は難しくなります。
認知症などで協議そのものができなくなる
相続人が認知症になると、判断能力の問題で有効な遺産分割協議ができなくなります。この場合は成年後見人の選任が必要になり、手続きと時間の負担が一気に増えます。
預金の凍結が続き、財産を活用できない
遺産分割が決まらないと、被相続人の預金口座は凍結されたまま。相続税の納税資金にあてたり、不動産を売却したりすることも難しくなります。
相続税の特例が使えなくなる
相続税の申告期限は10ヶ月以内です。この期限までに遺産分割が終わっていないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例といった大きな節税策を、いったん使えないまま申告することになります。
応じない相続人にはどう対処すればいいですか?

いきなり裁判所ではなく、段階を踏んで進めます。まず話し合いでの解決を試み、難しければ家庭裁判所の調停、それでもまとまらなければ審判へと移ります。
対処の流れは次の3ステップです。
まずは相手の言い分を聞き、不満の理由を確認します。分け方への不満なら、条件を調整して合意点を探ります。当事者だけでは感情的になりやすい場合は、司法書士など中立の専門家を交えて協議書の形に落とし込む方法もあります。
話し合いで解決しないなら、家庭裁判所の遺産分割調停へ。調停委員が間に入り、各相続人の主張を聞きながら合意を目指します。第三者が入ることで、当事者どうしでは進まなかった話がまとまることも少なくありません。
調停でも合意できなければ、自動的に審判へ移ります。審判では裁判官が、法定相続分などを基準に分割方法を決定します。当事者の合意がなくても結論が出る、最終手段です。
感情的な対立が深く、相手との直接交渉を代理してほしい場合は、弁護士への依頼が適しています。交渉や調停で相続人の代理人になれるのは弁護士だけだからです。一方、争いはないが手続きを進めたい、調停の申立書類を整えたいという場合は、司法書士がサポートできます。
分割方法を工夫すると合意しやすくなる
応じない理由が「特定の財産をめぐる対立」なら、分け方の工夫で合意に近づけることがあります。遺産の分け方には、大きく3つの方法があります。
| 分割方法 | 内容 | 向いているケース |
|---|---|---|
| 現物分割 | 財産を現物のまま分ける(自宅は長男、預金は次男など) | 財産の種類が多く、公平に振り分けられる |
| 代償分割 | 一人が財産を取得し、他の相続人へお金(代償金)を支払う | 実家など分けられない財産を一人が引き継ぎたい |
| 換価分割 | 財産を売却して、その代金を分ける | 誰も現物を必要とせず、現金で公平に分けたい |
たとえば「実家を継ぎたい」という相続人がいて他の相続人が反対するなら、その人が実家を取得する代わりに他の相続人へ代償金を支払う代償分割が有効です。誰も実家に住まないなら、売却して現金で分ける換価分割もあります。「分けられない財産」が対立の原因なら、方法を変えるだけで合意に至ることも少なくありません。
専門家としての見解・アドバイス
【ご相談内容】
これまで相続のご相談を受けてきた経験から申し上げると、「応じない相続人がいる」というご相談の中身は、大きく2つに分かれます。ひとつは、条件さえ整えば合意できるのに、伝え方や手順のせいで話がこじれているケース。もうひとつは、感情的な対立が根深く、当事者どうしの話し合いでは到底まとまらないケースです。
前者であれば、相続人と財産の範囲を正確に調べ、公平な分割案を書面で示すだけで、驚くほどすんなり合意に至ることがあります。応じなかった理由が「不公平だと感じていた」だけだった、という場面は珍しくありません。後者のように交渉の代理が必要な段階では、提携する弁護士へおつなぎします。
当事務所では、相続人調査・財産調査、遺産分割協議書の作成、まとまった後の相続登記までを司法書士が担当します。調停に進む場合の申立書などの書類作成もサポート可能です。争いの代理交渉が必要なケースは弁護士と連携してご案内していますので、「まず何から手をつければいいか」の段階でご相談ください。
遺産分割調停とはどのような手続きですか?
家庭裁判所で、調停委員を交えて相続人全員の合意を目指す話し合いの手続きです。当事者だけでは進まない協議を、中立の第三者が仲介して進めます。
調停は、裁判のように「勝ち負け」を決めるものではありません。裁判官と調停委員が各相続人の希望や事情を聞き、合意点を探ります。
調停の申立てに必要なもの
- 申立書(相手方の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出)
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍、相続人全員の戸籍など
- 遺産に関する資料(不動産登記事項証明書、預金残高がわかる書類など)
- 収入印紙1,200円分と連絡用の郵便切手
調停でも決まらない場合は審判へ
調停で合意に至らなければ、手続きは審判に移ります。審判では、裁判官が遺産の内容や各相続人の事情を考慮して、分割方法を決めます。当事者の合意がなくても結論が下される点が、調停との違いです。
調停から審判まで進むと、解決まで1年以上かかることも珍しくありません。だからこそ、早い段階での話し合いによる解決が望ましいといえます。
自分が遺産分割協議に応じたくない場合はどうすればいいですか?
応じたくない理由が正当なら、無理に署名する必要はありません。ただし、ただ放置するのではなく、自分の主張を適切な形で示すことが大切です。
分割案に納得できないまま署名すると、後から取り消すのは困難です。次の点を意識してください。
- 納得できない理由(取り分・寄与分・生前贈与など)を整理して相手に伝える
- 財産の全体像が示されていないなら、財産目録の開示を求める
- 話し合いで折り合えないなら、自分から遺産分割調停を申し立てることもできる
「応じない」という受け身の姿勢のままだと、他の相続人から調停を申し立てられ、結局は手続きに巻き込まれます。主張があるなら、待つのではなく、こちらから動くほうが有利に運びやすいでしょう。
この問題は弁護士と司法書士のどちらに相談すべきですか?
感情的な争いや代理交渉が必要なら弁護士、手続きや書類作成の面で支えてほしいなら司法書士が向いています。それぞれ対応できる範囲が違います。
役割の違いを整理しました。
| 対応できること | 弁護士 | 司法書士 |
|---|---|---|
| 相続人の代理人として交渉・調停に出る | ○ | × |
| 相続人・財産の調査 | ○ | ○ |
| 遺産分割協議書の作成 | ○ | ○ |
| 調停申立書など裁判所提出書類の作成 | ○ | ○ |
| まとまった後の相続登記(名義変更) | ○ | ○ |
大きな分かれ目は「代理交渉が必要かどうか」です。相手と直接やり取りしたくない、感情的な対立が激しいという場合は、代理人になれる弁護士が適任。
一方、争い自体は深刻でなく、公平な分割案を書面にまとめたい、調停の書類を整えたい、まとまったら不動産の名義を変えたい、という段階なら司法書士がサポートできます。まずどちらの段階かを見極め、必要なら専門家どうしで連携する形が現実的です。
ご相談事例
60代女性・兄が実家の相続を主張して協議が3年止まっていたケース
【ご相談内容】
お母様の遺産である実家(評価額約2,500万円)と預貯金約600万円について、長男であるお兄様が「実家は自分が継ぐ」と主張。ご相談者を含む妹2人は納得できず、話し合いが3年間止まっていました。相続登記の義務化を知り、このままではまずいとご相談にお越しになりました。
【対応結果】
まず相続人と財産の範囲を正確に調査し、実家の評価額と預貯金を合わせた公平な分割案を書面で提示。お兄様が実家を取得する代わりに、妹2人へ代償金を支払う「代償分割」の形を整えました。感情的な対立は深くなかったため代理交渉は不要と判断し、当事務所が協議書を作成。合意後の相続登記まで対応し、ご相談から解決まで約2ヶ月でした。争いが深いケースでは、提携弁護士と連携する体制も整えています。
遺産分割協議に応じない相続人に関するよくある質問
Q1. 相続人の一人が応じないと、他の相続人は何もできませんか?
遺産分割協議自体は成立しませんが、手はあります。話し合いで解決しなければ、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てられます。それでもまとまらなければ審判へ移り、当事者の合意がなくても分割方法が決まります。放置せず、段階を踏んで進めることが大切です。
Q2. 遺産分割協議に期限はありますか?
協議そのものに明確な期限はありません。ただし相続税の申告は10ヶ月以内、相続登記は取得を知った日から3年以内が義務です。これらの期限を過ぎると不利益が生じるため、実質的には早めの解決が必要になります。
Q3. 連絡を無視する相続人がいる場合はどうすればいいですか?
内容証明郵便で協議への参加を正式に求める方法があります。それでも応じないなら、家庭裁判所への調停申立てが有効です。行方不明の場合は、不在者財産管理人の選任など別の手続きが必要になります。
Q4. 遺産分割調停の費用はいくらかかりますか?
申立てにかかる実費は、収入印紙1,200円と郵便切手代など数千円程度です。弁護士に代理を依頼する場合は、着手金と報酬で数十万円以上が目安になります。司法書士に書類作成を依頼する場合の費用は、内容によって変わります。
Q5. 相続人が認知症の場合、遺産分割はできますか?
そのままでは有効な協議ができません。判断能力が不十分な相続人がいる場合、家庭裁判所で成年後見人を選任し、後見人が本人に代わって協議に参加します。時間がかかるため、早めの対応をおすすめします。
Q6. 一部の相続人だけで遺産分割を進めることはできますか?
できません。相続人が一人でも欠けた遺産分割協議は無効です(民法907条)。全員が参加し合意する必要があります。誰かが参加できない事情があるなら、その事情に応じた手続き(調停・後見人選任など)で対応します。
Q7. 遺産分割協議書の作成は司法書士に頼めますか?
司法書士が作成をお引き受けできます。相続人調査・財産調査から協議書の作成、まとまった後の相続登記まで一貫して対応可能です。相続人どうしの代理交渉が必要なケースでは、提携弁護士と連携してご案内します。
まとめ|放置せず、段階を踏んで動くことが解決の近道
この記事のポイントをまとめます。
- 遺産分割は相続人全員の合意が必要。一人でも応じないと協議は成立しない
- 放置すると相続登記の義務違反・相続人の増加・預金凍結など、時間が経つほど不利になる
- 対処は段階的に。話し合い→遺産分割調停→審判の順で進める
- 代理交渉が必要なら弁護士、手続き・書類作成の面は司法書士がサポートできる
- 自分が応じたくない場合も、放置せず主張を適切な形で示すことが大切
応じない相続人がいる状況は、時間が味方をしてくれません。相続人が増えたり認知症が進んだりする前に動くことが、円満な解決への近道です。まず相手の理由を見極め、適切な段階から手をつけることが第一歩になります。
やなぎ総合法務事務所では、相続人調査・財産調査、遺産分割協議書の作成、まとまった後の相続登記までを司法書士が一貫してサポートします。調停の書類作成にも対応し、代理交渉が必要なケースは提携弁護士と連携してご案内します。ご相談は無料です。「話し合いが進まない」「何から始めればいいか分からない」という段階で、お気軽にご相談ください。
![]() | ![]() |
| 相続サイト | |
| 所在地 |
|
| その他 |
|
著者情報
代表 柳本 良太

- <所属>
- 司法書士法人 やなぎ総合法務事務所 代表社員
- 行政書士法人 やなぎKAJIグループ 代表社員
- やなぎコンサルティングオフィス株式会社 代表取締役
- 桜ことのは日本語学院 代表理事
- LEC東京リーガルマインド資格学校 元専任講師
- <資格>
- 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
- 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
- 2009年 司法書士試験合格
- 2010年 行政書士試験合格














