代償金の支払いに悩み実家を見上げる男性

代償分割で代償金を一括で払えないときは、分割払い・金融機関からの借入れ・代償金の減額・換価分割への切り替えの4つを検討します。

どの方法を選ぶ場合も、合意した内容を遺産分割協議書に正確に書くことが前提です。

◆ この記事でわかること

  1. 代償金を払えないときに選べる4つの対処法と、選び方の目安
  2. 分割払い・ローンで支払うときの協議書の書き方と、手続きの順番
  3. 代償金が支払われないときの対応と、受け取る側が備えておくこと

※本記事は司法書士法人やなぎ総合法務事務所が監修しています。最終更新日:2026年10月

目次

代償分割で代償金を払えないときは、どうすればいいですか?

代償金の支払い方法を話し合う兄弟

一括で払えないなら、分割払い、借入れ、減額交渉、換価分割への切り替えの順に検討します。代償分割(1人が実家などを取得し、ほかの相続人へお金を払う分け方)をあきらめる前に、打てる手は残っています。

代償金を払えないときの対処法を一覧で比べます。

対処法内容向いているケース注意点
分割払い・支払猶予代償金を月々や年ごとに払う毎月の安定した収入がある受け取る側の同意と、公正証書化が必要
金融機関から借りる相続した不動産を担保に借り入れる収入があり、返済の見込みが立つ担保設定のため、相続登記を先に行う
代償金を減らす評価方法の見直しや、ほかの財産の配分で調整する不動産の評価額で意見が割れている相続人全員の合意が必要
換価分割に切り替える不動産を売却し、代金を分ける実家に住み続ける必要がない譲渡所得税と仲介手数料がかかる
共有にする相続人全員の共有名義にするどうしても話がまとまらない売却や建替えに全員の同意が必要になる

判断の目安は「毎月いくらなら確実に払えるか」

まず、毎月無理なく払える金額を出します。代償金1,200万円を月10万円で払うと、完済まで10年かかります。月5万円なら20年です。

支払期間が10年を超えるなら、借入れや減額交渉と組み合わせるか、換価分割も比べてください。期間が長いほど、途中で支払いが止まるリスクが高まります。

代償金を分割払いにするには、どうすればいいですか?

受け取る相続人の同意を得たうえで、支払回数・金額・期限・遅れたときの扱いを遺産分割協議書に書きます。口約束だけで分割払いにするのは避けてください。

STEP 1返済計画を数字で示す

頭金の有無、毎月の支払額、完済時期を一覧にして、受け取る側に提示します。根拠がある計画ほど同意を得やすくなります。

STEP 2協議書に分割払いの条項を入れる

「代償として」支払う旨、分割の内容、期限の利益喪失、遅延損害金の4つを漏れなく書きます。

STEP 3協議書を公正証書にする

強制執行認諾文言(支払いが止まれば裁判なしで差押えできるという一文)を入れた公正証書にします。公証人手数料は、代償金の額に応じて数万円程度です。

STEP 4登記と支払いのタイミングを決める

頭金の支払いと実家の相続登記を同じ日に行うなど、受け取る側の不安を減らす段取りを組みます。

分割払いにする場合の、協議書の記載例です。

条項記載例
代償金の支払義務相続人Aは、第1条の不動産を取得する代償として、相続人Bに対し、金1,200万円の支払義務を負う。
分割払い相続人Aは、前条の金員を、令和○年○月から令和○年○月まで、毎月末日限り金10万円ずつ、相続人Bの指定する口座に振り込んで支払う。
期限の利益喪失相続人Aが前条の支払いを2回以上怠り、その額が20万円に達したときは、当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う。
遅延損害金相続人Aは、期限の利益を失ったときは、残額に対し年3%の割合による遅延損害金を付して支払う。

【注意】

「代償として」の文言がないと、代償金の振込みが単なる贈与とみなされ、受け取った人に贈与税がかかるおそれがあります。

代償金を用意するために、ローンは使えますか?

金融機関で代償金のための融資を相談する男性

使えます。相続した不動産を担保にして、金融機関から借り入れる方法が一般的です。

代償金の借入れは、不動産担保ローン扱いが多い

住宅ローンは家の購入や建築が主な用途のため、代償金の支払いには使えない金融機関が多くあります。一方で、相続関連の資金に使えるローンや、不動産担保ローンを扱う金融機関もあります。

金利は住宅ローンより高めに設定されることが一般的です。金融機関ごとに条件の差が大きいため、地元の信用金庫を含めて2〜3社に相談してください。

借入れから代償金の支払いまでの流れ

担保を設定するには、実家を取得する人の名義になっている必要があります。そのため、手続きは次の順番になります。

  • 遺産分割協議書を作成し、相続人全員が実印で押印する
  • 実家の相続登記を申請する
  • 金融機関の抵当権を設定し、融資を受ける
  • 融資金から代償金を支払う

受け取る側から見ると、先に登記だけが済むのは不安です。相続登記・抵当権設定・代償金の支払いを同じ日に行えば、この不安を解消できます。

審査で見られるポイント

  • 借りる人の年収と、ほかの借入れを含めた返済負担の割合
  • 担保になる不動産の評価(築年数が古いと評価が低くなりやすい)
  • 完済時の年齢

ご相談事例|50代男性・代償金900万円を、実家を担保にした借入れで支払ったケース

【ご相談内容】

母が亡くなり、相続人は50代の長男と、他県に住む弟の2人。遺産は大阪市内の実家(実勢価格約2,200万円)と預貯金400万円でした。長男は実家に住み続けたい一方、弟は「すぐにお金で受け取りたい」という意向です。代償金900万円を一括で用意できず、ご相談に来られました。

【対応結果】

遺産分割協議書を作成したうえで、地元の信用金庫に融資を打診。実家を担保に800万円の借入れが決まり、自己資金100万円と合わせて代償金を準備しました。相続登記・抵当権設定・代償金の振込みを同じ日に行い、弟にも安心して押印していただけました。ご相談から約3ヶ月で、すべての手続きが完了しています。

代償金の額を減らすことはできますか?

相続人全員が合意すれば、代償金の額は自由に決められます。評価方法の見直しや、ほかの財産との組み合わせで減らせる場合があります。

不動産の評価方法を見直す

代償金は、不動産をいくらと評価するかで大きく変わります。実勢価格(実際に売れる価格)を基準にするか、相続税評価額を基準にするかで、2割程度の差が出ることがあります。

実家の実勢価格が3,000万円、相続人が兄弟2人の場合で比べます。

評価の基準実家の評価額代償金(2分の1)
実勢価格(時価)3,000万円1,500万円
相続税評価額(実勢価格の約8割)2,400万円1,200万円
固定資産税評価額(実勢価格の約7割)2,100万円1,050万円

※割合は土地の一般的な目安です。建物の相続税評価額は、固定資産税評価額と同じ金額になります。

どの評価を使うかに決まりはありません。取得する側と受け取る側の間をとって、中間の金額で合意するケースも多くあります。

預貯金をほかの相続人に多く配分する

実家以外に預貯金があるなら、預貯金を受け取る側へ多めに配分します。その分、現金で払う代償金を減らせます。

寄与分や特別受益を主張する

実家を取得する人が親の介護を長く続けていたなら、寄与分(遺産を維持・増やした貢献分)を主張できる場合があります(民法904条の2)。反対に、ほかの相続人が生前に多額の援助を受けていれば、特別受益(生前贈与などの前渡し分)として計算に入れられます(民法903条)。

【注意】

相続開始から10年を過ぎると、調停や審判では原則として寄与分・特別受益を主張できなくなります(民法904条の3)。

払えないなら、換価分割や共有に切り替えるべきですか?

実家に住み続ける必要がないなら、換価分割への切り替えが最も確実です。共有は、将来の手続きが難しくなるため最後の手段と考えてください。

代償分割を続ける場合と、切り替える場合を比べます。

比較項目代償分割(分割払い・借入れ)換価分割共有
実家残せる手放す残せるが、単独では売却・建替えできない
必要な資金代償金(借入れを含む)不要(売却代金で分ける)不要
税金協議書に記載すれば贈与税はかからない売却益に譲渡所得税がかかる売却時に各共有者に課税
将来のリスク支払いが止まるとトラブルになる少ない次の相続で共有者が増え続ける

換価分割なら、空き家の特別控除を使える場合がある

親が1人で住んでいた実家を相続して売ると、一定の要件を満たせば譲渡所得から最大3,000万円を控除できます。対象は2027年12月31日までの売却で、相続人が3人以上なら1人あたり2,000万円です。

建築時期や耐震性などの要件があるため、売却前に税理士へ確認してください。

代償金が支払われないと、どうなりますか?

支払いが止まっても、遺産分割協議そのものは原則としてやり直せません。受け取る側は、代償金の支払いを請求していくことになります。

不払いを理由に、協議を解除することはできない

遺産分割協議で負担した債務が履行されなくても、それを理由に協議は解除できません。最高裁判所がそう判断しています(最高裁平成元年2月9日判決)。協議を解除できると、相続関係がいつまでも安定しないためです。

代償金を回収するまでの流れ

STEP 1内容証明郵便で支払いを求める

支払期限と金額を明記し、支払いを求めた記録を残します。

STEP 2公正証書や調停調書があれば、強制執行を申し立てる

給与や預金を差し押さえて回収します。裁判を経る必要はありません。

STEP 3公正証書がなければ、支払請求の訴訟を起こす

判決を得てから強制執行を申し立てます。回収まで半年以上かかることもあります。

代償金の請求権にも時効がある

代償金の請求権は、支払期日から5年で時効により消滅します(民法166条1項1号)。分割払いなら、各回の支払期日ごとに時効が進みます。支払いが止まったら、放置せずに早めに請求してください。

専門家としての見解・アドバイス

これまで遺産分割のご相談を受けてきた経験から申し上げると、代償金のトラブルの多くは「払える見込みのない金額で合意した」ことから始まります。実家を残したい一心で、手元資金や収入を確かめずに金額だけ決めてしまう。数年後に支払いが滞り、兄弟の関係まで壊れてしまうケースを何度も見てきました。

受け取る側にとっての最大の防御は、公正証書にしておくことです。協議書だけでは、支払いが止まったときに訴訟から始める必要があります。公正証書の手数料は数万円程度で、回収にかかる時間と費用を考えれば十分に見合います。

当事務所では、協議書の作成前に「毎月いくらまで払えるか」を確認し、分割払い・借入れ・換価分割のどれが現実的かを一緒に整理しています。相続登記と代償金の支払いを同じ日に行う段取りや、譲渡所得税が絡む場合の提携税理士との連携まで含めてお手伝いしています。

当事務所にご依頼いただく場合の報酬の目安です(税別・実費別)。

サポート内容報酬の目安
遺産分割協議書作成(不動産登記用)55,000円〜
不動産の名義変更(1管轄・不動産4個まで)55,000円〜
相続登記スタンダードプラン(相続人が配偶者・子)98,000円

相続登記には、別途登録免許税(固定資産税評価額の0.4%)がかかります。

代償金を払えない場合のよくある質問

Q1. 代償金はいつまでに払わなければいけませんか?

法律上の期限はなく、遺産分割協議書で定めた期日までに払います。相続税の申告期限は、相続を知った日の翌日から10ヶ月以内です。それまでに協議をまとめておくと、小規模宅地等の特例などを使いやすくなります。

Q2. 代償金を分割払いにすると、利息はかかりますか?

相続人どうしの合意で決めるため、利息を付けないことも可能です。利息とは別に、支払いが遅れた場合の遅延損害金を定めておくのが一般的です。

Q3. 代償金を払えないので、相続放棄をしたいのですが可能ですか?

相続を知った時から3ヶ月以内で、遺産分割協議をしていなければ可能です。ただし、実家を含むすべての財産を受け取れなくなります。協議が成立した後は、原則として相続放棄はできません。

Q4. 代償金の代わりに、自分の土地や車を渡せますか?

渡せます。ただし、自分の財産で代償金を払うと、時価で売ったものとみなされ、値上がり益に譲渡所得税がかかります(所得税基本通達33-1の5)。渡す前に税理士へ試算を依頼してください。

Q5. 親族からお金を借りて代償金を払っても大丈夫ですか?

問題ありませんが、借用書を作り、返済の記録を残してください。返済の実態がないと、借りたお金が贈与とみなされ、贈与税がかかるおそれがあります。

Q6. ほかの相続人から「払えないなら売れ」と言われています。断れますか?

協議では全員の合意が必要なため、売却に応じる義務はありません。まとまらなければ調停や審判に進みます。審判で代償分割が認められるには、代償金を支払う能力があることが条件とされています(最高裁平成12年9月7日決定)。

Q7. 代償金が払えないまま、実家に住み続けるとどうなりますか?

協議が成立していない間、実家は相続人全員の共有状態です。親と同居していた相続人は、遺産分割が終わるまで無償で住み続けられると考えられています(最高裁平成8年12月17日判決)。ただし協議が長引けば、ほかの相続人から遺産分割調停を申し立てられる可能性があります。

まとめ|代償金を払えないなら「払える形」に組み直す

この記事のポイントをまとめます。

  • 代償金を払えないときは、分割払い・借入れ・減額交渉・換価分割の順に検討する
  • 分割払いにするなら、期限の利益喪失と遅延損害金を入れた協議書を公正証書にする
  • 借入れで払うなら、相続登記・抵当権設定・代償金の支払いを同じ日に行う
  • 代償金が払われなくても、遺産分割協議は解除できない。公正証書があれば強制執行できる
  • 支払期間が長すぎるなら、換価分割への切り替えも比べて判断する

代償金を一括で払えなくても、実家をあきらめる必要はありません。大切なのは、払える見込みのある金額と方法で合意し、その内容を書面に残すことです。

司法書士法人やなぎ総合法務事務所では、支払計画の整理から遺産分割協議書の作成、相続登記まで一貫してお手伝いしています。譲渡所得税や相続税の検討が必要な場合は、提携税理士と連携して対応します。代償金の支払いに不安がある段階で、まずは無料相談をご利用ください。

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著者情報

代表 柳本 良太

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    <資格>

  • 2004年 宅地建物取引主任者試験合格
  • 2009年 貸金業務取扱主任者試験合格
  • 2009年 司法書士試験合格
  • 2010年 行政書士試験合格
司法書士法人やなぎ総合法務事務所運営の相続・家族信託相談所